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塚本晋也監督「多くの若い人に観てほしい」――映画『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』第83回ヴェネチア国際映画祭ワールドプレミア公式会見レポート

鬼才・塚本晋也監督の最新作『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』が、第83回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、現地時間9月4日(金)にワールドプレミアが開催された。会場には塚本晋也監督をはじめ、主演のロドニー・ヒックス、『シャイン』『英国王のスピーチ』などで知られるアカデミー賞俳優ジェフリー・ラッシュらが登壇。公式記者会見、フォトコール、レッドカーペットも行われ、世界中から集まった映画関係者やメディアが本作に注目するワールドプレミアとなった。

実際にベトナム戦争に従軍したアレン・ネルソン氏の証言をもとに、「戦争加害者の傷」というテーマに真正面から挑んだ本作。ニューヨーク、ベトナム、タイ、沖縄の4か所で撮影を敢行し、戦争によって生まれる加害者の傷という、これまで十分に描かれてこなかったテーマに迫る、戦争映画の常識をくつがえす衝撃作となっている。出演は精神科医ニール・ダニエルズ役にアカデミー賞俳優ジェフリー・ラッシュ、アレン・ネルソン役にブロードウェイ俳優ロドニー・ヒックス、そして、アレンの活動をサポートする日本人・黒井役にリリー・フランキーが出演。ヴェネチア国際映画祭の常連の塚本監督のヴェネチアのコンペティション部門への正式出品は、『鉄男 THE BULLET MAN』(09)、『野火』(14)、『斬、』(18)に続き4回目。世界各地で戦争や紛争が長期化・激化する現在、塚本監督が「世界がますますキナ臭くなってしまっている今、必ず作らなければならない映画」と位置付けた本作を、ヴェネチアの地に送り出した。

公式記者会見には塚本晋也監督、精神科医ニール・ダニエルズのジェフリー・ラッシュ、アレン・ネルソン役のロドニー・ヒックスらが出席。会場には世界各国約100名以上の記者が集まり、事前に本作を鑑賞した世界各国の記者からはその衝撃の大きさを物語るように、次々と質問が寄せられた。

まず「戦争におけるPTSDを取り上げようと思った理由は?」という質問に対し、塚本監督は「10年前に『野火』の製作時に出会ったのが本作です」と語り始めた。「アレン・ネルソンさんというアフリカ系アメリカ人のベトナム戦争体験を描いた本だったのですが、その本に出会ってショックだったのは、戦争で起こることを正直に、そのまま赤裸々に語っていたことです。加害者側の目線で描かれていたことにも非常に大きな驚きがありました。それを映画にするのは非常に難しいと思いましたが、映画にして、なるべく多くの皆さんに観てもらうことは非常に大事なことだと思い、この映画を作りました」と映画化の原点を明かした。

出演者の2人には原作からどのような人物像を見いだし、そして演じるにあたりどのように役と向き合ったのか質問が飛んだ。ロドニーは初めて脚本を読んだときから「この映画をやりたい」と思ったと話し、「これまで私たちがあまり目にしてこなかった(加害者)視点から、物語が描かれていたからです。アフリカ系アメリカ人の退役軍人が戦争から戻った後の物語を描いた作品は初めてです。また、PTSDというテーマがここまで描かれることもありませんでした。塚本監督がご自身の演出によって、フィルターを通さず、正直に物語を描いてくれました。本作においても、人間性というものが重要なテーマになっていると思います。何が正しく、何が正しくないのか。その根底にある問いを通して、私たちの日常をどのように見つめ直すことができるのか――。この映画には、そうしたことを考えさせる力があると思いました」と回答。一週間という限られた撮影期間のなかでアレン・ネルソンの回復に挑むという密度の高い役に臨んだジェフリーは「塚本監督から、演じる前によく質問をされました。50年役者をやっていますが、そうした質問から大きなパワーを感じました。撮影のリズムやペース、そして監督の純粋なオープンさが、素晴らしい環境を作ってくれました。カメラがまるで消えていくように感じられる環境で、撮影中は私たち二人だけでいるような感覚でした」と振り返った。さらに塚本監督ついて2人は「まさに格別でした。丁寧で穏やかで、親切で禅の達人のようでした。」(ロドニー)、「事前ミーティングであらゆる言語でやり取りを終えると塚本監督からは『おぉ!』という驚いたような声が聞こえてくるんです。その一声のトーンだけで、監督が何を考えているのかが伝わってきました。『ああ、あなたが探求しようとしている方向性がわかりました。撮影現場で、それを一緒にやっていきましょう』という反応を返してくれる。そんな監督とのやり取りが、とても印象に残っています」(ジェフリー)と答え、その人柄を称賛した。

塚本監督には本作に込めた想いや現在各地で行われている戦争についてどのような考えを持っているか質問が集中した。塚本監督は「ドローンなどのテクノロジーによって、加害者側の意識や戦争との距離感が変わってきていることは、ひとつの恐ろしい出来事だと思います。ただ、よく考えてみると、加害者側のあり方が変わっても、被害者側は、内臓が飛び散り、目が飛び出し、家族が悲しむ。昔も現代も、その悲劇性は変わりません。いろいろなものが変化してきていますが、被害者がどのような思いをしているのかを想像することが、非常に大事だと思います。テクノロジーが進み、被害者との距離がどんどん遠くなることで、加害者側の意識が薄れてしまうことへの心配はありますが、被害そのものは変わらないということを、よく考えてほしい」と語った。さらに「本作はベトナム戦争を描いていますが、私が描こうとしたのは、アレン・ネルソンさんの人生そのものです。アレンさんの話を聞いた時、もはや出身国の問題ではなく、どこの国だろうが戦争に行くとこんな恐ろしいことをしてしまう(そのことを)正直に語っていることに衝撃を受けた。とにかく、時代も国も越えて、どこの国の人であっても、戦争に行けば恐ろしい目に遭い、そして恐ろしいことをしてしまう。そのことを描きたかったのです」とコメント。また「この作品は、若い世代に戦争を防ぐ力があると思いますか?」という質問に対し、塚本監督が「どう思いますか?」と記者に逆質問すると、記者は「あると思います!」と即答。これを受け、塚本監督は「私も、それを信じてこの映画を作っています。若い人たちに頭でストーリーを追ってもらうというよりも、登場人物と同化し、実際に体験しているように感じてもらえる作品にしたかった。肌で、身体で感じてもらい、少しトラウマになるくらいの体験をしてもらいたいと思っています。そうすれば、戦争に行くことになったとき、身体が拒否反応を示すのではと思うのです。私が子供の頃、父親や母親、祖父母は戦争について話してくれませんでしたが、戦争をリアルな映像や描写で描いた創作物がリアルで、それが私の心に小さなトラウマを生み、結果として戦争を憎むようになったのです。その小さなトラウマや、まるでその場にいるかのような臨場感を感じてもらうことは非常に大事だと思っています。それを感じてもらえれば、映画の力によって、いつか若い人たちがこの作品を観たときに“戦争の現場には行きたくない”と身体で感じてもらえるのではないかと思っています。だからこそ、なるべく多くの人にこの映画を広げていただきたいのです」と本作が多くの人に広がることを願った。

また、「本作を回想形式にし、あの恐ろしいほどの苦しみとの対比を描いたのは、どのような意図があったのでしょうか?」という質問には「最初は時系列に沿って脚本を書いていました。ただ、かなり膨大で重い物語だったため、映像としても少し重たくなってしまう可能性がありました。脚本を書き進める中で、物語が長く、扱う範囲も広すぎると感じ、短縮する必要があると考えました。そこで、アレンとダニエルズのセラピーのセッションの中に回想シーンを入れることで、物語の流れをスムーズにすることができました。映画の構成という観点からも、これは良い選択だったと思います」とその構成に込めた意図を明かした。

記者会見が終了の合図がされると、各国の記者が塚本監督のもとへ一斉に駆け寄り、本作への関心の高さがうかがえる盛況ぶりとなった。国境を越えてさまざまな問いが寄せられるなか、塚本監督は一つひとつの質問に真摯に答え、本作に込めた思いを丁寧に伝えた会見となった。

※映画祭写真クレジット:Kazuko Wakayama

 

『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』
9月11日(金)よりkino cinéma新宿ほか公開

<あらすじ>
貧困や差別から抜け出すために18 歳で入隊したアフリカ系アメリカ人のアレン・ネルソン。ベトナムという苛烈な戦地で学んだのはただひとつ、いかに多くの人を殺せるか。その対価として得たのは、ごくわずかな賃金とPTSD(戦争後遺症)だけだった。23 歳で家を追い出され、ホームレスとなったアレンをこの世につなぎ止めたのは、退役軍人病院でカウンセリングを行っていたダニエルズ医師の存在だった。

<クレジット>
出演:ロドニー・ヒックス、ジェフリー・ラッシュ、マーク・マーフィー、リリー・フランキー and タチアナ・アリ
監督・脚本・撮影・編集:塚本晋也
原作:「「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」ベトナム帰還兵が語る「ほんとうの戦争」」(アレン・ネルソン著、講談社文庫刊)
参考文献:「戦場で心が壊れて 元海兵隊員の証言」(アレン・ネルソン著、新日本出版社刊)
製作:木下グループ
制作プロダクション:キノフィルムズ、Cross Media International、J&B Entertainment、Chanh Phuong Films
配給:キノフィルムズ
2026年|日本|英語|116分|カラー|5.1ch|Dolby Atmos|ビスタサイズ|英題:Mr. Nelson, Did You Kill People?|PG12
© Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners / © Allen Nelson/KODANSHA
公式サイト:nelsonsan.jp
公式X:@nelsonsan_movie