【第38回東京国際映画祭】クロエ・ジャオ監督「生理の間はとてもクリエイティブになれる」、女性であることや、女性特有の身体事象が映画作りに与える影響を語る!【ウィメンズ・エンパワーメント・トーク “ハー・ゲイズ”】

本日11月3日、東京ミッドタウン日比谷BASE Qにて映画監督のクロエ・ジャオと呉美保が対談した。
現在開催中の東京国際映画祭のウィメンズ・エンパワーメント部門のイベント「HER GAZE」(ハー・ゲイズ)として実現した今回の対談。活躍する女性の作り手を招いて、その仕事や考え方、ひとりひとりの眼差し-GAZE-を深く学び、共有するトークイベント、というのが今回のイベントの趣旨だ。

クロエ・ジャオは今年の東京国際映画祭で黒澤明賞を受賞し、最新作『ハムネット』がクロージング作品に選ばれている。第一部ではクロエ・ジャオが登壇し、司会からの質問に答えた。アカデミー賞を受賞した『ノマドランド』など、クロエ・ジャオ作品では「自然の中で生きる人間」を映し出した場面が多い。そのことについてクロエ・ジャオは「私たち人間を構成するのは木とか雨の粒と同じ粒子。だから自然の中にいると本当の自分により近くなる。私の映画、特に直近の2作では【一つである=ONENESS】について描いている。私たちは自分と他者は別である、分離しているという幻想の中で生きているが、自然の中にいると【一つであること】を感じる。」と、自然との一体性について語った。
クロエ監督は続けて「日本に来る前に「ラ・ママ」と呼ばれている火山に登った。そこは溶岩が通った隣に木が生えている。溶岩は破壊の象徴であるけど、そこから栄養を得て木が生えている。自然には生と死があるように、創造には破壊がある。この二つは繋がっているだけでなく、お互いを必要としている。」と語った。

ウィメンズ・エンパワーメントということで女性であることが映画作りに与える影響について聞かれるとクロエ監督は「実はこのトークに来る前に生理が始まった。私は生理が来るのが大好きで、これから5日間はとてもクリエイティブになれるから。パワーを感じます。女性の体は毎月破壊と再生を繰り返している。」と、女性特有の身体現象をポジティブに捉えていることを明かした。さらに「自分自身であるために自分の影になる部分を大事にしている。私はカール・ユングを信奉しているが、ユング曰く影というのは自分の中の無意識の一部で、一番抑圧されて恐れている部分。同時に自分が一番求めている部分だという。だから他の人に気づかれないように、無意識に押し込めている。なのでストーリーテラーとして無意識のものを意識に上げるのはすごく重要だと思う。」と自信が信奉する心理学者についても語った。
第二部では映画監督、呉美保も登壇し、クロエ監督とトーク。女性監督同士のトークとなった。第一部でクロエ監督が「生理が好き」と語ったとことについて呉監督は「そういう人と出会ったのは初めて。」と驚きを語った。これについてクロエ監督は「女性には毎月四季がある。生理の期間が冬、冬眠中みたいな感じ。その間に脚本を書いたりしている。その後に春が来る。春が来ると希望でいっぱいになる。そして春から夏にかけて排卵期が来る。この間、女性はすごく魅力的な匂いを発する。そして秋、月経前症候群が来る。怒りがきたり落ち込んだりする。その間に自分の人生を評価、観察する。変化させたほうがいいところとか、自分の人生を棚卸する。何か壊されるべきものがあるかも分かる時期。いわゆる男性性というのは非常に直線的で、平日働いて二日間休む。これは男性用の構築の仕方。世の中自体の構造が女性にとって力や深みを発揮できないようになっている。」と女性の体の周期が、一般的な平日働いて休日休むという規則的な構成とマッチしていないことなどを語った。

呉監督は2015年と2020年に子供を産み、その間にはコロナ禍も経験し、映画を観れていない時期があった。監督作も2015年の『きみはいい子』から昨年公開の『ぼくが生きてる、ふたつの世界』で9年空いている。この間に、アカデミー賞授賞式で見たクロエ・ジャオ監督の衣装に衝撃を受けたことを語っており「すごく着心地がよさそうで、ありのままで良いんだ!と良い意味で衝撃だった。固定観念をポジティブに覆された。育児がすごくハードで、モチベーションが映画に向かなくて、時々自分はもう映画を撮らないのかと自問自答していたが、あのスピーチを見て救われた。」と育児中に抱えていた葛藤を、クロエ監督の姿を見ることで救われたと話した。
さらに呉監督自身が在日三世であることにも触れて「クロエ監督作品ではアイデンティティについても描かれている。『エターナルズ』に出てくる超人たちもすごく人間味がある。クロエ監督にしか描けないと思った。」と絶賛した。

特にハリウッドの映画となればかかわる人間の数も増える。その中で孤独を感じることはあるか、と呉監督が質問すると、クロエ監督は「いつも孤独を感じている。これは現代の病気だと思う。例えばNYの人ごみの中に一人でいると、砂漠で一人で馬に乗っているよりも孤独を感じる。今までの映画ではアイデンティティを通して繋がろうと描いてきた。この孤独の深さは自然のものだと思えない。自分の中の孤独を埋めるために、外に答えを求めてきた。大きな成功を収めれば孤独を感じないかと思ったけど、ダメだった。自分の中に欠けたものがある。多くの人は小さいときに社会に出たときに、安全でないと感じた経験がある。そこから自分を守るために、魂や自分自身を隠してしまった。あまりにも深く隠してしまったので、どこに隠したか自分でも分からなくなってしまった。」と語った。
呉監督からは映画製作についても話題が出た。映画製作は現実では時間との闘い。撮影中につい感情的に声を出すことはあるかと聞かれると、クロエ監督は「映画を作るときは、私も叫んだりします。でも、一番大きな声を出すから一番パワフルなわけではない。『ノマドランド』の撮影では、みんな遠くにいるので叫んだりしたけど(笑)」と笑いながら語っていた。
イベントに来場した人から俳優に求めることを聞かれるとクロエ監督は「虚栄心のなさ。見栄とか虚栄心は本物感を一番壊すと思う。本物であること、真実味は俳優が見ている人に差し出せる最高の贈り物。私が求めているのは、俳優の技術的なところではなく、恐れずにその場にいること。自分のそのままを見せることを求めています。」と、ありのままの自分を見せることを求めていることを明かした。

イベントに来場した日本の女性へのメッセージを求められるとクロエ監督は「世の中はあなたのままでいること、女性のあなたがあなたのままでいる状態が必要。男性になろうとする女性ではない。ぜひ女性でいることを楽しんでください。」と熱く語って、イベントは終了した。
クロエ・ジャオ監督の最新作『ハムネット』はシェイクスピアの名作戯曲「ハムレット」の誕生の背景にあった悲劇と愛の物語を、フィクションを交えながら描いた作品で、今年のトロント国際映画祭で観客賞を受賞するなど、多くの絶賛を集めており、既にアカデミー賞最有力ともいわれている。11月5日には東京国際映画祭のクロージング作品として日本初公開となる。
(取材・文/大西D)

<第38回東京国際映画祭 開催概要>
開催期間:2025年10月27日(月)~11月5日(水)
会場:日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区
公式サイト:www.tiff-jp.net
<TIFFCOM2025開催概要>
開催期間:2025年10月29日(水)~10月31日(金)
公式サイト:www.tiffcom.jp
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