坂口健太郎、渡辺謙から「10年後を楽しみにしています」とエール!映画『盤上の向日葵』初日舞台挨拶レポート

映画『盤上の向日葵』の初日舞台挨拶が10月31日、都内で行われ、坂口健太郎、渡辺謙、熊澤尚人監督、原作者の柚月裕子が登壇した。
舞台挨拶は上映後に行われ、客席から大きな拍手が送られる中、キャストと監督が姿を見せた。主演の坂口は、まず公開初日の気持ちを語った。「初日を迎えると、そこからはお客様のものになるという感覚があります。撮っている間は“どう届くのか”“どう受け取ってもらえるのか”ということをずっと考えているんですけど、封切りした瞬間に自分の手元から離れていく寂しさもある。でも、受け入れてもらって少しずつ大きくなっていく様子を見続けられるのは、すごくうれしいことだと思います」
坂口が演じる上条桂介は、アマチュアから異例のスピードでプロ棋士になった一方で、重い過去を抱えた人物。公開直後から「桂介、頑張れ」「涙が止まらない」といった感想が寄せられていることについて、坂口は「監督や共演者のみなさんと信じながら1つずつ積み上げてきたものが映画というかたちになるのは、やっぱりどこか緊張感があります。想いが伝わったという声を聞けると、救われたような感覚になりますね」と話した。

桂介に大きな影響を与える真剣師・東明重慶を演じた渡辺は、作品の手触りについて「映画って、観客の方に届いてから逆に育っていくものだと思っています」と語る。「劇中ではかなりしんどい生き方も描かれていますけど、そこにつながるものは、きっと誰の中にもあると思うんです。この映画がこれから多くの人に渡っていってくれたらうれしいですね」と続け、作品に託す思いを口にした。
坂口と渡辺は本作が初共演。現場での空気について、坂口は「東明を演じている謙さんと一緒の時間が多かったので、東明が出てくるシーンには常に不穏な空気と緊張感がありました」と明かす。「普段はすごく軽やかにいろんな話をしてくださるんですけど、『よーい』の声がかかった瞬間に一気に空気が切り替わる。その切り替えの速さと厚みみたいなものに、役としても俳優としても飲み込まれる感じがありました」と語った。渡辺は、自身が演じる東明の“現れ方”にも触れた。「僕(東明)が出てくる場面って、暗闇の中から出てきたり、なぜか風が吹いていたり、コスチュームも風を受けやすい柔らかいコートにしたり……いろいろな工夫をしてもらっていたんです。その空気に乗っかっただけですよ」と笑い交じりに話した。

イベント中盤では、柄本明が演じる東北一の真剣師・兼崎元治との対局シーンにも話が及んだ。将棋盤をはさんで座っているだけの場面にも、ただならない圧が漂っていたという。坂口は「2人のあいだに何かが充満している感じがありました。盤の上で斬り合っているような空気というか。本当に不思議な体験で、すごい瞬間に桂介として立ち会わせてもらったと思います」と語る。渡辺は柄本について「“バケモンが来たな”という感じがありました」と笑い、「思い描いていた10倍の“化け物感”だったので、『負けないぞ』という気持ちになりました。それを坂口くんがしっかり受け止めてくれた」と、俳優同士のぶつかり合いを振り返った。
物語の終盤、桂介と東明が向き合う場面についても言及があった。渡辺は「原作はもっと切なくて、かなり救いの少ない終わり方だったんですよ」と明かす。「脚本ではそこに少し優しさが入っていた。だからこそ、東明が抱えているものを桂介にもちゃんと背負わせなければいけないという気持ちがありました」と話した。坂口は「桂介はもっと悲惨な結末になっていたかもしれない」としたうえで、「東明との関係の中で、ある意味“無理やり背負わされたもの”が、生きる理由になった気がしています。謙さんの東明への愛情、その温度が作品の魅力にもなっていると思います。役をちゃんと生き切る、ということをすごく学ばせてもらいました」と語った。

舞台挨拶にはサプライズゲストとして原作者の柚月裕子も登壇。作品タイトルにもつながる向日葵の花束を坂口、渡辺、熊澤監督に手渡すと、客席から大きな拍手が起きた。

作品にちなんだ黄色く輝く向日葵の花束を坂口、渡辺、監督へプレゼントすると、会場から大きな拍手が送られた。柚月は作品について「この映画を見て3回涙を流しました。1度目はやっぱり幼少期の桂介ですね。(演じた)小野(桜介)くんのあの演技が素晴らしく、健気な様子に涙がほろりと流れ、今度は大人になった桂介が、もうこれでもかっていうぐらい追い詰められていく・・・不憫だなって切ない涙が流れ、そしてラストシーンで感動の涙を流すという、この映画には大変泣かされました。」と募る想いを馳せる。上条桂介の壮絶な人生を通して描かれる“生き切れ”という力強い本作ならではのメッセージについては渡辺が「元々台本には“生きろ”と書いてあったんですね。柚月先生にいろんな話を聞くなかで、先生の中で“生きる”ということだけではなくて、“生き切ってほしい”という言葉を3回、4回お話されたんですよ。これはやっぱり大事なワードに違いないと思いました。ラストシーンまで結構時間があったので監督に“こういう風に~”と伝えて僕のせいにしないでね、先生のせいにしてって(笑)」と話すと、柚月は「私自身、生きると生き切るって2つとも似ているけど似て非なるものみたいな。“生きる”という現在進行形と、自分たちの前を見据えて人生を“生き切る”っていう覚悟。とても大切な、私の中にもあったワードだったんだなと気づかせて頂きました。」と、本作の渾身のメッセージ“生き切る”に関する撮影秘話が飛び出し、会場は2人の話に熱心に耳を傾けた。

また柚月は本作に対して“嫉妬”したところがあるといい「実は本になる前の連載の段階で、桂介と仲がいい設定の女の子を出したんです。ただ私はその女の子を小説ではなかなか動かせなかったのですが、映画で監督がしっかりと描いてくださっていたので、良かったなと思うと同時にちょっと悔しいなと思いました。」と、土屋太鳳演じる映画オリジナルキャラクターの桂介の元婚約者・宮田奈津子を挙げ、嫉妬も込めて本作を大絶賛した。
熊澤監督は「構想から8年」と制作の経緯を振り返り、「撮影までにもいろいろな苦労はありましたが、坂口さんと謙さんに出会って、この2人で撮れるならと一気に形になっていきました。猛暑の中で、厚着のまま雪のシーンまで撮ったんです。こちらも負けないように向き合いました」と語った。

渡辺は「この映画がどう成長するか、皆さんの力を借りながら育っていってほしい」と観客に呼びかけたあと、坂口に向けて「この仕事で“継承”って簡単じゃないんです。10年くらいして『あのときのことはこういうことだったのか』と自分の中で熟成していく。それが僕らの受け継ぎ方なんです。だから、10年後を楽しみにしています」と伝えた。

坂口は最後に「命がけで撮った作品です。しんどい瞬間や目を背けたくなる瞬間もある。でも、登場人物それぞれが“生き切った”姿を見届けてもらえたらと思っています。作品を少しずつ大きいものにしていってもらえたらうれしいです」と客席に語りかけ、舞台挨拶は締めくくられた。

『愚か者の身分』
2025年10月31日(金) 全国公開
【ストーリー】
山中で謎の白骨死体が発見される。事件解明の手掛かりは、遺体とともに発見されたこの世に7組しか現存しない希少な将棋駒。容 疑をかけられたのは、突如将棋界に現れ、一躍時の人となっていた天才棋士〈上条桂介〉だった。さらに捜査の過程で、桂介の過去を知る重要人物として、賭け将棋で裏社会に生きた男〈東明重慶〉の存在が浮かび上がる。桂介と東明のあいだに何があったのか?謎に包まれた桂介の生い立ちが明らかになっていく。それは、想像を絶する過酷なものだった……。
【キャスト】
坂口健太郎 渡辺謙 佐々木蔵之介 土屋太鳳 高杉真宙 音尾琢真
柄本明/渡辺いっけい 尾上右近 木村多江 小日向文世 ほか
【スタッフ】
監督・脚本:熊澤尚人
原作:柚月裕子「盤上の向日葵」(中央公論新社)
音楽:富貴晴美
主題歌:サザンオールスターズ「暮れゆく街のふたり」(タイシタレーベル / ビクターエンタテインメント)
製作:「盤上の向日葵」製作委員会
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/松竹
©2025映画「盤上の向日葵」製作委員会
公式HP:https://movies.shochiku.co.jp/banjyo-movie/
公式X/Instagram:@banjyo_movie
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