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【あなたの勇気を呼び覚ます！ 強くて魅力的な女性キャラクター特集】#16 『かもめ食堂』のサチエ

映画・ドラマライターの伊藤万弥乃です。この特集では「あなたの勇気を呼び覚ます！ 強くて魅力的な女性キャラクター特集」と題して、やる気が出ない時、スカッとしたい時、どんな人でも楽しんでもらえる映画をご紹介していきます！

 

フィンランドで『かもめ食堂』を営むサチエ

今回紹介したいのは、映画『かもめ食堂』のメインキャラクターであるサチエ（小林聡美）です。フィンランドで日本食料理屋を営んでいる彼女。日本食料理屋と言っても格式が高いものではなく、ランチやカフェとして気軽に入ることができる“食堂”です。

オープンしたものの、変わり者がられてなかなか繁盛しないかもめ食堂。そこに日本大好きな青年トンミ・ヒルトネン（ヤルッコ・ニエミ）がやってきたことで転機が訪れます。そして日本に帰る日を決めず、気の向くままフィンランドやってきたミドリ（片桐はいり）とマサコ（もたいまさこ）も手伝うようになり、食堂の雰囲気も一変、お客さんで溢れかえる大人気な食堂となっていくのでした。

 

「……でも、大丈夫」

そんな強さ溢れるサチエの行動の中でも、彼女の意思の強さが垣間見えるところがあります。それは、なかなかかもめ食堂にお客さんがやってこないことを気にしたミドリが、ガイドブックにお店を載せてもらったらどうかと話すシーンと、看板メニューのおにぎりの具をフィンランド人に馴染みのあるものに変えてみたらどうかと提案するシーンです。

サチエは、しばらくお客さんが来なくても不安を抱くことなく、目の前にあるグラスを拭き続ける。もし筆者がサチエの立場であれば、異国の地でこの先やっていけるのだろうか？という思いと腹痛に苛まれていたに違いありません……。きっとミドリもそう思ってサチエの助けになれることはないかと提案したのでしょう。

ガイドブックに関しては、いわゆる日本食を求めている人に自分の店は合わないと思っていると話すサチエ。もっと身近で気軽に入ってもらえる店を目指していると言います。

「毎日まじめにやっていれば、そのうちお客さんも来るようになりますよ。それでもだめなら……その時はその時。辞めちゃいます。でも、大丈夫。」

何かに一歩踏み出そうと考えている人や、なかなか成果が出ずに悩んでいる人は特にこの言葉に背中を押されるはず。彼女の表情からも、自信と決意を感じることができます。

また、新作おにぎりを作ってみるため、ミドリが持ってきたのは、トナカイの肉にニシンの酢漬け、そしてザリガニ……。サチエは一瞬不安な顔を見せますが、ミドリの提案を否定することなく、常連のトンミ・ヒルトネンと一緒に試作品を食べてみます。しかし、やはりサチエの心の中では日本らしい具が一番だという意識があったよう。おにぎりに対する彼女の思い入れと、それを楽しんでほしいという思いには強いものを感じました。

その後、どの具もおにぎりには微妙だと悟ったミドリは「余計なことを言ってすみません」と言い、サチエも「試せて良かったです」と話します。自分の軸がぶれることなく、相手に対する気遣いもさりげない。きっと誰もが、明るくて懐の広いサチエに憧れてしまうはずです。

 

「人はみんな変わっていくもの」

また物語の中で、特に深く頷いたのはサチエの現実との向き合い方です。

先述の通り本作では1人で食堂を営んでいた彼女のもとに、日本人女性が2人やってきて居着く。しかし2人がいつ帰ってしまうかはわかりません。ミドリに「私が日本に帰ることになったらサチエさんは寂しいですか？」と聞かれたサチエは、なかなか寂しいと答えず、「人はみんな変わっていくものですから」と話します。

確かに、ずっと友達でいたり、ずっと家族でいたりすることは、変わりゆく人生では難しいことです。生活が移り変わって疎遠になることもあるし、死があって生がある。そのことを俯瞰してしっかりと理解し、今の幸せな空間にしがみつこうとせず、移りゆく人生を楽しんでいる。彼女の自由で心地よい雰囲気に吸い込まれてしまうような感覚を覚えました。

食と人生について深く考えさせられる、何度も何度も観返したくなってしまう『かもめ食堂』。勇気と強さが欲しくなったら、サチエの存在を思い出してみてください。「大丈夫」と背中を押してくれるに違いありません。

 

 

『かもめ食堂』
2005年製作／102分／日本

出演者：小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ、ヤルッコ・ニエミ、マルック・ペルトラ

監督・脚本：荻上直子
原作：群ようこ
音楽：近藤達郎
主題歌：井上陽水「クレイジーラブ」
撮影：トゥオモ・ヴィルタネン
編集：普嶋信一

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伊藤万弥乃 (いとうまやの)
海外映画とドラマに憧れ、英語・韓国語・スペイン語の勉強中。大学時代は映画批評について学ぶ。
映画宣伝会社での勤務や映画祭運営を経験し、現在はライターとして活動。シットコムや韓ドラ、ラブコメ好き。

執筆記事：https://linktr.ee/mayano
ブログ：https://ladybird99.com/

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伊藤万弥乃