【プロが見たこの映画】ファッションのプロが語る「ワンコインと15分」
せい家のラーメンがついに800円に値上がりした。
ここ最近で1番悲しかった。
せい家のラーメンも卵もコンビニのおにぎりも何もかも値段が上がっていく今の世の中で、ワンコイン500円で出来ることは限られている。ところが先日、ヒューマントラストシネマ渋谷にて、ワンコインで人生最高の15分を経験した。
皆さんは、ビー・ガンという中国の監督をご存知だろうか。
2020年に日本でも公開された『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』は中国本土でたった1日で41億円の興行収入を達成したという驚愕の作品なのだが、2時間20分ほどの本編のうち後半1時間を長回しかつ3D映像に切り替えた演出も驚愕で、どこか懐かしいようなノスタルジックな映像にすっかり魅了されてしまった。
そんなビー・ガンの新作短編映画が『Bi Gan A SHORT STORY ビー・ガン / ショート・ストーリー』だ。上映時間は15分、現在ヒューマントラストシネマ渋谷でのみ上映しており、ワンコイン500円で鑑賞することができる。
物語はおとぎ話のようで、孤独で変わり者の黒猫が「この世の中で、一番大切なもの」の答えを求め、3人の奇人に会いに行く、というところからスタートする。
これが本当に素晴らしい作品だった。たった15分が永遠のようにも感じるし、ほんの数秒にも感じる。鑑賞後、何度も何度も映画の中を反芻して、あの映画館で体験した特別な15分間の中に自分を留めておくことに必死になった。
帰り道は電車の中で、購入した作品パンフレットを袋から何度も出して、開いて読んで、袋にしまって、また出しては読んで、を繰り返した。
普段ならグミやタバコ、UFOキャッチャー、缶ビールに溶けていく500円が、忘れられない特別な15分を私に与えてくれたのだ。
そして同じく、インスタのストーリーズ、XのYouTuber炎上ニュース、1,000円で飲める居酒屋を見たり調べたりして消えていく15分が、ワンコインで最高の映画体験へと姿を変えた。
おそらく大人だったら誰でも知っている本当に当たり前のことを言うが、お金も時間も、何に使うかでこんなにも得られるものが違うんだと、ビー・ガンがたったの15分で教えてくれた。(ただ、自論としてはどっちが良いとか悪いとかでもなく、500円をグミに溶かしてもいいし、1,000円で飲める居酒屋を探す15分もそれはそれで好きだ。)
にしても画期的な短編映画のワンコイン上映、これを機に広まってくれたらな、と思う。ツァイ・ミンリャンの『その夜』と『月と樹』も上映希望します。
映画ファッションマニア つみき
『Bi Gan A SHORT STORY ビー・ガン / ショート・ストーリー』公開中
監督:ビー・ガン
出演:タン・ジュオ、チェン・ヨンゾンほか
(C)Dangmai Films / ReallyLikeFilms
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