【あなたの勇気を呼び覚ます! 強くて魅力的な女性キャラクター特集】#9 『湯を沸かすほどの熱い愛』の母親・双葉
強くて魅力的な女性キャラクター特集 #9
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映画・ドラマライターの伊藤万弥乃です。この特集では「あなたの勇気を呼び覚ます! 強くて魅力的な女性キャラクター特集」と題して、やる気が出ない時、スカッとしたい時、どんな人でも楽しんでもらえる映画をご紹介していきます!
■『湯を沸かすほどの熱い愛』で病を抱えならがも強く生きる双葉
今回ご紹介するのは、映画『湯を沸かすほどの熱い愛』の宮沢りえ演じる双葉です。彼女は娘・安澄(杉咲花)を育てながら、失踪した夫・一浩(オダギリジョー)の分まで働き、やがて病に倒れてしまいます。しかも末期がんで余命はあとわずか。彼女は残りの人生で、学校で嫌がらせを受けている安澄を社会に馴染ませ、夫を探し出し、夫と経営していた銭湯を立て直すことを決めるのです。
筆者がこの作品に映画が公開されていた時期にリアルタイムで出会いました。まだ大学一年生という大人になりかけの時期だったので、「果たして自分は双葉のように強い女性(母親)になれるのだろうか?」と思い悩みながら、母親の偉大さを想い、目頭が熱くなった記憶があります。
本作は家族の物語ですが、そこに“他人”も深く絡んできます。まず、一浩が愛人との間に作った子供・鮎子(伊東蒼)。そして物語中盤、双葉が安澄と鮎子と旅行に向かう道中、バックパッカーとして旅をしている若者・拓海(松坂桃李)と出会います。2人は新たに、双葉によって人生の大きな変化を迎えることになります。
※以下ネタバレを含みます。
■娘たちに捧げた唯一無二の愛情
自分が死ぬということがわかると、深い悲しみの中でも、自分のやりたいことをやり遂げたい!という気持ちになるのが普通ではないでしょうか。しかし双葉は、自分のことではなく、家族に関することを優先します。そこに彼女の人間としての強さがあって、悲しむ間もなく、それを行動に移せるというところに母親としての強さもあると思いました。
「私ね、少しの延命のために自分の生きる意味を見失うのは絶対嫌」という言葉を話します。家族を立て直すという目標があったからこそ、最後まで彼女らしく生きることができたのです。
劇中には、特に彼女の強さを感じることができるシーンがあります。まずは安澄が絵の具を付けられ、制服をとられるなど、学校で弱い立場にいることを知りながらも、学校に行きなさいと促す双葉の行動です。娘としての目線で見てみると「何でわかってくれないの」となりそうですが、大人になった今は「今日諦めたら二度と行けなくなるよ」という言葉が沁みてきます。
大人になれば自分のやりたくないこと、やりたいことを自由に選択できますが、学生時代は嫌でも“やらなければいけないこと”がとても多い。でもそれを乗り越えることで、新しい世界が見えるかもしれません。本作でも、折れずに自分から行動に移した安澄もとても強いと思います。踏ん張れたからこそ、新しい自分に出会うことができるはず。
その後のシーンでも双葉の強引さに、ちょっと……と思う人もいるとは思いますが、筆者はそこに「安澄ならできる」と信じた双葉の愛を感じました。(同じように勇敢な遺伝子が欲しいですね。)
次に強さを感じるのは、双葉と安澄の関係を見て、自分の母親を強く求めるようになる鮎子との接し方です。夫が子供を連れてくるなんて、ショックが大きいはずです。それでもよその子だからと優しく接するのではなく、時には厳しく、時には自分の子供のように温かく包み込み、遠慮なく言葉をかける一面があります。そんな双葉に対し、鮎子は心を開いていき、拓海に安澄と鮎子が本当の姉妹だと思われるほど、垣根のない他人同士の人間関係を築いていくのです。
鮎子が泣きながら「ここにいさせてほしい」とお願いして、双葉も涙を見せるシーンがとても印象的です。母親が自分の元から離れていくという同じ経験をしているからこそ、双葉は自分の幼い頃を思い出したに違いありません。だからこそ、哀れむのではなくて対等に接し、双葉自身が母親からもらうことができなかった愛情を姉妹にたっぷり与えているのでしょう。安心できる場所として存在する、理想の母親像だと筆者は思っています。
死にゆく双葉の姿を見届けるのは少し辛いシーンもありますが、バラバラに生きていた人々が双葉によって集められ、次第に共存していく。理想とも言える他人同士の関係性、あるべき姿がこの銭湯に込められているなと思います。筆者も双葉のように強く、最後まで信念をもって生きていこうと改めて考えました。家族としゃぶしゃぶを囲みながら、他愛もない話をしたくなる映画です。
『湯を沸かすほどの熱い愛』
2016年製作/125分/日本
出演:宮沢りえ、杉咲花、篠原ゆき子、駿河太郎、伊東蒼/松坂桃李/オダギリジョー
脚本・監督:中野量太
Netflixで視聴する→こちら
伊藤万弥乃(いとうまやの)
海外映画とドラマに憧れ、英語・韓国語・スペイン語の勉強中。大学時代は映画批評について学ぶ。映画宣伝会社での勤務や映画祭運営を経験し、現在はライターとして活動。シットコムや韓ドラ、ラブコメ好き。
執筆記事:https://linktr.ee/mayano
ブログ:https://ladybird99.com/
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