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【あなたの勇気を呼び覚ます! 強くて魅力的な女性キャラクター特集】#8 殺し屋と母親を兼業?!韓国映画『キル・ボクスン』のボクスン

強くて魅力的な女性キャラクター特集 #8

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映画・ドラマライターの伊藤万弥乃です。この特集では「あなたの勇気を呼び覚ます! 強くて魅力的な女性キャラクター特集」と題して、やる気が出ない時、スカッとしたい時、どんな人でも楽しんでもらえる映画をご紹介していきます!

 

シングルマザーで最強の母親ボクスン

今回ご紹介するのは、2023年のベルリン国際映画祭ベルリナーレ・スペシャル部門でも上映された韓国映画『キル・ボクスン』。筆者は今年の釜山国際映画祭に参加するため、韓国映画・ドラマを改めて見直して気持ちを高めている中、この映画を観るに至りました。

キル・ビル……?と思う人も多いと思いますが、まさに殺し屋の話。しかし『キル・ビル』のように「“ボクスン”を殺す」のではなく、主人公の女性の名前が“キル・ボクスン”なのです。

ボクスン(チョン・ドヨン)は殺し屋会社・MKエンターテインメントに所属する最強の殺し屋。冒頭ではファン・ジョンミン演じる関西を拠点とする暴力団のトップで在日韓国人の男を無惨な方法で殺し、その腕を視聴者に見せつけます。しかし、家に帰れば思春期の娘が待っている普通のシングルマザー。そんな非人道的な世界で生きるボクスンの、母親としての等身大の悩みや、仕事の世代交代にスポットが当てられた一風変わった物語です。

 

※以下ネタバレを含みます。

 

 

筆者が好きなのは大手殺し屋会社・MKエンターテインメントの社内システム。まるでK-POPアイドルの事務所のように訓練生の“月末評価”を行っていたり、街に出て殺しをすることを“デビュー”と言ったり、訓練生が他の殺し屋に挨拶した時は「MKならエリートなんだな」と大手事務所に所属するK-POP練習生を見るように珍しがられていたり……韓国ならではのエンタメシステムも組み込まれていて、K-POP好きとしても面白く観ることができました。

強くいるための糧で、弱点でもある娘の存在

さて、ボクスンの強さはどんなところに表れているのか。殺し屋としての腕は完璧で、相手が大きな男性であろうと、何人で向かって来ようと関係ないボクスンの身体的な強さはもちろんですが、猟奇的に殺すというよりは、静かに一人ひとりを着実に殺していく姿に含まれていると思います。

前提として人殺しは良くないことであり、ボクスンが人を殺すことに対して躊躇しないところは一見“サイコパス”ですが、映画というエンターテインメントとして俯瞰して観てみると、ボクスンの強さは、物事を冷静に判断できるぶれない心にあると思うのです。

しかし、殺しはあくまで仕事として割り切りかっこよくこなしていても、家に帰れば母親モード全開で、子育てに自信を持てないボクスン。食器を片付け、落ちている服を拾って洗濯し、思春期の娘・ジェヨン(キム・シア)の機嫌を取ることに精一杯です。そんな姿もギャップとして描かれていて、親近感も覚えることでしょう。

この特集で何度も述べているように、ずば抜けた強さを持っている人はその分、強烈な弱点も隠し持っています。ボクスンの場合、それはジェヨンです。娘にはイベント会社に勤務していると伝えているボクスンは、ジェヨンにその秘密がバレてしまっては今までの信頼関係が崩れる可能性があることを懸念しています。なにより、娘に同じ道を辿って欲しくはなかったのです。

さらに、息子殺害を殺し屋に依頼してきた政治家にも怒りを覚えた彼女は、殺し屋としての域を超えて、親としての感情から殺しを“失敗”として処理するのでした。それほどに子を想う親の気持ちが強いのだと言えます。最終的には良好な母娘の関係性を築くことができたボクスンとジェヨン。一つの時代が過ぎ、これから殺し屋業界はどのような方向に進んでいくのか私たち一般市民には到底想像がつきませんが、筆者はこれからの2人の幸せを願わずにはいられませんでした。

本作はチョン・ドヨン、ファン・ジョンミン、ソル・ギョング、ク・ギョファンなど韓国を代表する映画俳優たちだけでなく、キム・シアやイ・ジェウク、イ・ヨンなど今を時めく若手が大集結しているのも見どころ。『キル・ビル』のごとくボスを殺そうとするところや、『ジョン・ウィック』やクエンティン・タランティーノ作品のような雰囲気も併せ持つ、殺し屋の新たな物語。ぜひボクスンの揺れ動く心情にも注目してみてください。

『キル・ボクスン』
2023年製作/139分/韓国

出演:チョン・ドヨン、ソル・ギョング、キム・シア、イ・ソム、ク・ギョファン、キム・ソンオ、チェ・ビョンモ、キム・ギチョン、チャン・インソプ

監督・脚本:ピョン・ソンヒョン

Netflixで視聴する→こちら

 


伊藤万弥乃(いとうまやの)
海外映画とドラマに憧れ、英語・韓国語・スペイン語の勉強中。大学時代は映画批評について学ぶ。映画宣伝会社での勤務や映画祭運営を経験し、現在はライターとして活動。シットコムや韓ドラ、ラブコメ好き。
執筆記事:https://linktr.ee/mayano

ブログ:https://ladybird99.com/

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