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【あなたの勇気を呼び覚ます! 強くて魅力的な女性キャラクター特集】#2 強弱の対比が切なさを生む『007/カジノ・ロワイヤル』ヴェスパー・リンド

映画・ドラマライターの伊藤万弥乃です。前回から新たに「あなたの勇気を呼び覚ます!強くて魅力的な女性キャラクター特集」という企画をスタートしました。この特集ではやる気が出ない時、スカッとしたい時、男女問わず楽しんでもらえる映画をご紹介していきます!(初回は『アトミック・ブロンド』をご紹介しましたので、ぜひご覧ください!)

さて、今回ご紹介するのは『007/カジノ・ロワイヤル』(2006年)のボンドウーマン(ボンドガール)ヴェスパー(エヴァ・グリーン)です。「007」と言えば、イギリスのMI6で働くジェームズ・ボンドですが、彼と同じくらい毎回注目を集めているのはボンドウーマンですよね。時にはボンドと一緒に標的に挑み、時にはボンドを翻弄します。

『007/カジノ・ロワイヤル』はダニエル・クレイグ版007の記念すべき1作目。悪役ル・シッフル役には映画『アナザーラウンド』『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』やドラマ「ハンニバル」で知られる“北欧の至宝”マッツ・ミケルセンが務めたことも印象的。ダニエル・クレイグとマッツ・ミケルセンという色気溢れる2人の攻防戦を見守るのがエヴァ・グリーン演じるボンドウーマンのヴェスパーです。

 

※以下ネタバレを含みます。

■強弱の対比が切なさを生む『007/カジノ・ロワイヤル』ヴェスパー・リンド

物語の中盤、テロ組織から預かった資金を水の泡にしてしまったため資金を稼ごうとするル・シッフルを、ポーカーで阻止しようするボンドの監視役であり、お金を管理するために派遣された財務省の担当者としてヴェスパーは登場します。2人は移動中の列車ではじめて会話を交わしますが、思わず目が釘付けになってしまっているボンドと、それを分かって言葉で弄ぶヴェスパーという2人が放つ独特の雰囲気に一気に引き込まれてしまうこと間違いなし。その後のボンドウーマンとの出会いと比べても一番印象が強いシーンです。普通の公務員では出せないような、このただならぬ雰囲気は何なのか…?と思わされますが、その理由は終盤に明らかに。

そしてル・シッフルの強烈な拷問にも耐え、逃げ切った2人は、ヴェネチアで幸せなひと時を過ごすことになります。ボンドもヴェスパーとの出会いは必然だったと確信し、ヴェスパーと人生を共にするため、MI6を離れることを決意。しかしそんな幸せも束の間、ヴェスパーが大金を持ち出し、消えてしまうのです……。

ハラハラした場面からひと段落して、2人の甘すぎる大人なシーンに胸をなでおろしたところで起こるこの展開。お金を管理していたヴェスパーはテロ組織の一員だったかと思いきや、彼らに捕まってしまったボーイフレンドのために自分の身を危険にさらしていたのでした。

ヴェスパーの本当の目的を知ったボンドは、それでも彼女を助けるために敵との銃撃戦を繰り広げますが、ヴェスパーは自ら崩壊しつつある建物のエレベーターに閉じこもり、自ら死を選びます。ボンドはヴェネチアの運河に沈みゆく彼女を救出しますが、時すでに遅し。それでもなお彼女を抱きかかえ、蘇生を試みるボンドの深い愛が伝わるこの場面は名シーンと言えます。しかしヴェスパーはここで終わりではありません。その後の『007』でもボンドが愛した女性として、度々回想され、時に利用される、ある意味これから先のボンドと共に生きていく唯一無二の女性です。

ではヴェスパーのどこに強さを見出すことができるのか。それを深掘りするためには、彼女の“弱さ”に注目してみましょう。

クレイグ版007の裏側を語ったドキュメンタリー『ジェームズ・ボンドとして』でも取り上げられたようにこの作品で特に印象的なシーンは、ル・シッフルとのポーカーの最中、部屋に戻ったヴェスパーが恐怖のあまり、服を着たまま、膝を抱えてシャワーに打たれているシーンではないでしょうか。

ボーイフレンドが連れ去られた今、自分が動かないと何も変わらない。また、MI6との仕事ということもあり、危険を承知でやって来たに違いありません。でもいざ銃撃戦を目の当たりにすると、表向きに見せていた強い女性像が崩れ落ち、恐怖と不安だけが残ってしまった。それを見たボンドは、まだ彼女とは親しい間柄ではないにもかかわらず、同じように服のままシャワーに濡れ、彼女に寄り添うのです。

そんな弱い面を見せたヴェスパーですが、身を引くことはせず、自分の信じる道に向かって突き進んでいきます。死ぬかもしれないという可能性を改めて受け入れ、一皮むけた状態でヴェネチアに向かうのです。そんな一人の愛する男性のために命を捧げられる愛こそ、ヴェスパーの本当の強さだと思います。弱さを知ってこそ、それを守るように強く生きられる。その対比が彼女自身を作り出していると言えるでしょう。

もちろん、ボンドと過ごした日々で感じた感情もすべて嘘ではなかったはず。その感情に対する、そして騙すようなことをしてしまったボンドに対する申し訳なさが時々滲み出ているようにも感じます。ボーイフレンドを愛したように、ボンドのことも愛していた。その結果、自らの行動に反して、ボンドを守るような行為も取ったのでしょう。すべてを知った後に観直してみてもさらにこの作品を楽しめるかもしれません。

過激なアクションと大人なセクシーさ、そして少しの悲しみを含む『007』シリーズ。ヴェスパーだけでなく、その後に登場するボンドウーマンもそれぞれに異なる強さを見せてくれます。観る際はぜひウォッカマティーニを片手に。新たなボンドを迎えて公開される新作も楽しみにしたいと思います。

 

『007 カジノ・ロワイヤル』
2006年製作/144分/イギリス・アメリカ・チェコ合作
原題: Casino Royale

出演:ダニエル・クレイグ、エヴァ・グリーン
監督:マーティン・キャンベル

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伊藤万弥乃(いとうまやの)
海外映画とドラマに憧れ、英語・韓国語・スペイン語の勉強中。大学時代は映画批評について学ぶ。映画宣伝会社での勤務や映画祭運営を経験し、現在はライターとして活動。シットコムや韓ドラ、ラブコメ好き。
執筆記事:https://linktr.ee/mayano

ブログ:https://ladybird99.com/