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若き狩人デクと未知の惑星──『プレデター:バッドランド』が描く新たな狩りの物語

◆今週公開の注目作

 『プレデター:バッドランド』
2025年11月7日(金) 全国ロードショー

『プレデター:バッドランド』をどう観るかは、このシリーズ全体をどう捉えているかで大きく変わる。そもそもプレデターは実質『2』までが本編で、そこから先は“面白いのに続かない”作品が断続的に並んでいくという、非常に変わったシリーズだ。ナンバリングが止まったことで、続編の流れが明確に存在しない。観客も制作側も、“毎回まったく別の作品”として向き合ってきた歴史がある。

今回の『バッドランド』は、その独特な歴史を踏まえながら、“別ルートのシリーズ”として置かれているように見える。まず大きいのは、プレデターそのものを主人公にした方向転換。これまで“恐怖の象徴”だった存在が、今作では自らの生き方や目的を背負ったキャラクターとして描かれる。人間の視点から逃げるのではなく、あえて“プレデター側”から世界を見ることで、長く続いたシリーズの視界が反転する。物語の中心にいるのは、異端として扱われた若いプレデター、デク。彼は部族の掟を破り、追放されるように危険な惑星バッドランドへ送り込まれる。そこには、自分より巨大で凶暴な生命体がうごめき、地形自体が生存を拒むような世界が広がっている。つまり、今回のプレデターは“狩る側”ではなく、“狩られる可能性しかない環境”で戦うことになる。シリーズの根幹だった立ち位置が逆転しているのが面白い。さらに、デクが出会うのは人間ではなく、WAを由来とするアンドロイドのティア。人間的な感情を持つティアと、寡黙なデクという、言語も文化もまったく違う存在が手を取り合う展開は、これまでのシリーズではあり得なかったものだ。プレデターの誇りや掟を知ることになるのは、むしろ観客側だ。

こうした路線は、ここ数作を牽引しているダン・トラクテンバーグ監督の方向性にある。『プレデター ザ・プレイ』(2022)、『最凶頂上決戦』(2025)を経て、『バッドランド』に至る流れを振り返ると、シリーズが“再構築の途中”にいることが見えてくる。ただし、それは『2』の続きを肩代わりしているわけではない。むしろ、フォックス時代の“正史”とは別に、もうひとつの方向へ枝分かれしている印象が強い。その背景には、プレデターが20世紀フォックスからディズニー傘下へ移ったという事情もある。90年代アクションの延長線にあったIPが、ディズニーの“再設計の対象”になったことで、作品の扱い方やターゲットの想定が変わっている。ディズニー傘下になった映画が、過去の延長ではなく、新しい入口として作り直される例は他にもあるが、プレデターもその一つと言えるだろう。これが良いことか悪いことかは分からない。古参のファンからすれば、プレデターは泥臭さと恐怖が原点であり、都市の闇に紛れ込む“異物感”こそが魅力だった。人間との死闘という構図が崩れることで、シリーズが別物に見える感覚も正しい。一方で、今の方向性が若い観客への入口になっているのは事実で、SNS上でも“初めてプレデターを観た”という感想は確実に増えている。こうなると、プレデターというIPが“生きている”のか“死んでいる”のか、その判断すら曖昧になる。『2』のあと何度も沈んでは蘇り、AVPで再燃し、また忘れられ、そして『ザ・プレイ』で再び注目され、また賛否で揺れる。ある意味で、プレデターは“死ぬこと”と“蘇ること”がセットになっているシリーズなのかもしれない。

『バッドランド』は、その“蘇生のサイクル”の中で生まれた一本だ。『2』で終わっていると感じる人にとっては、今回の視点に戸惑うだろうし、逆にシリーズが変わる可能性に期待している層には、一歩先の面白さがある。それが今のプレデターの立ち位置であり、この作品を観る意味にもなっている。プレデターが誰と戦うのかではなく、なぜ戦うのかを描こうとした時点で、シリーズは従来の“恐怖映画”から別の場所に踏み出している。それがシリーズとしての成功かどうかはまだ判断できない。ただし、新しいルートが始まったことだけは確かだと思う。そして、プレデターが本当に“死んでいるIP”なのかどうか。今はまだその途中にいるだけだと感じる。『バッドランド』は、その途中に立ち会う一本だ。

『プレデター:バッドランド』
2025年11月7日(金) 全国ロードショー

原題:『Predator: Badlands』
監督:ダン・トラクテンバーグ
キャスト:エル・ファニング
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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