『泣く子はいねぇが』サン・セバスティアン国際映画祭リモート会見&日本プレス向け記者会見レポート
第68回サン・セバスティアン国際映画祭
オフィシャルコンペティション部門に出品!
『泣く子はいねぇが』
映画祭公式リモートプレスカンファレンス&日本プレス向け会見レポート
8月22日(火)夜、東京・バンダイナムコアーツにて映画『泣く子はいねぇが』、サン・セバスティアン国際映画祭のリモート会見と日本プレス向けの会見が行われた。会見には本作で主演を務めた仲野太賀、監督の佐藤快磨、企画として参加した是枝裕和が出席した。
まずはサン・セバスティアン国際映画祭のリモート会見に挑んだ3人。早速、是枝に「この作品の魅力は?」という質問が飛んだ。「3年ぐらい前に佐藤監督の脚本を読んでとても感動した。映画が終わった後の読後感がすごく良くて、たくさんの人に受け入れられるという直感を持った。何とか応援をしたいと思った。時間はかかったが自分の想像以上の作品になったと思う。」と語った。
佐藤監督には「この映画に5年間かけたと伺ったがこの映画の発想はどこから来たのか?」と質問が飛んだ。佐藤は「このストーリーの始まりは、僕が20代後半に差し掛かって、同級生が結婚して父親になってく中で、自分自身が父親になる未来が見えないというところからでした。父親になるというのは、子供が生まれて時間が経ってからなのか、それとも別のタイミングなのか、この映画の中から探すことができたら、父親ではない自分が撮る意味があると思いました。」と答えた。
続いて主演の仲野に「この映画の主人公をどのように感じた?」という質問があり、仲野は「父親としての自覚がないまま父親になってしまった。大人になりきれずに大人になってしまった子供なんだと思います。脚本を読んだ上で、ラストシーンが好きで、娘への愛情と主人公たすくの悲しい現実が、日本の伝統文化の上に共存していて、主人公の身勝手な愛情ですけど、そこが美しいと感じたので演じたいと思いました。」と本作出演への思いを語った。
続いて記者から「本作で長編映画デビューだが、是枝の協力は大きかった?」と聞かれると、佐藤監督は「5年前にこの映画の脚本を書くために取材を始めたときは、まさかこういう予算だったり公開規模の作品になるとは思っていなかった。比較的地味な脚本だったので、商業映画としては難しいと思っていたけど、その脚本を是枝監督に読んでもらって、背中を押してもらったので、それがなければこれほどの映画は撮れなかったと思う。」とコメントした。
「是枝作品はよく家庭内のドラマが多いが、そう言うところで共感できた?」と聞かれると、是枝は「そう感じた面もありましたけど、作品を見るとなかなか大人になれない男の周りにいる女性たちの存在が、彼が次の一歩を踏み出すことに大きな影響を与えている。女性の描き方がすごく良くできている。そこにすごく感動した。」とコメントした。
仲野には「大作映画に出るとインディペンデント映画には出づらく人も多いと思うがどう思っているのか?」と質問が飛び、仲野は「自分はいわゆる独立系の映画を見て育ったと言う自覚があるので、独立系の映画は俳優として出続けたいと思うし、しっかり関わっていきたいと思います。」と答えた。
次に佐藤監督に「ロケ地は秋田県男鹿半島で、そこで撮影するに当たって苦労したところや、地元の人の反応を教えてください」と質問が飛び、佐藤監督は「5年前に、この映画の構想の話をしに行った時には、ナマハゲは神様であるから、ナマハゲが泥酔して裸になると言う表現はやめてくれと言われました。けれどもこのナマハゲっていう行事には子供を泣かせるだけではなくて、父親が子供を守る、子供が父親に守られるっていう面がある。今の日本では父親を育んでいくというような側面を持つ行事が中々なくて、ナマハゲにはそれがあると思った。ナマハゲは父親を成長させていくっていう側面を伝えて、だんだんこの映画を受け入れていってくれました。」とコメント。
現地の記者と活発なやりとりを行われたリモート会見が終了し、その後、日本のマスコミ向け会見が実施され、3名が記者たちの集まる会場に登場した。
仲野は以前も佐藤監督作品に出演したことがあるが「今回は長編で、撮影も長くて、そう言った環境の違いが大きかった。秋田県男鹿市の地元の方も、この映画の脚本や監督を信じて、本当に足並み揃って一つの作品を作り上げた、その美しさがあって、その体験は中々得難いと思いました。映画祭に出品されて、作品が海を超えて違う国の人に見てもらえて、すごく幸せです。」とコメントした。
是枝は「脚本で感じた感動が、映画になった時も素晴らしい着地になっていて、吉岡さんと仲野さんのセリフを超えたお芝居とラストを見て、力のある監督なんだと感じた。撮影の現場でも、そこにいる人たちが皆佐藤監督を信じて結束していた。だからこそこう言った作品ができた。」と絶賛した。
質疑応答では佐藤監督に「会見で女性の描き方が印象的だったと是枝さんが言っていたが、そこについてどう思うか?」と聞かれると、「最初は主人公の母親が優しい視点を与えて、兄が厳しい視点を与えるという風に考えていたけど、母親役を演じた余貴美子さんと話して、「これは優しさではなくて、母としての責任という視点を向けたい」と言っていた。「母の持つ厳しさをキャラクターを通して演じたい」と余さんは言っていて、そこで母のキャラクターに血が通った感じがしました。吉岡さん演じた主人公の妻は、正直最初は吉岡さんをイメージしていなくて、ただ吉岡さんが最初のシーンを演じていたときに、母になることに不安な、吉岡さんは明確な母親像を持っていて、でも近づけないという弱い母親がいたので、それは吉岡さんにしか演じられないと思った。」語った。
また、佐藤監督は秋田で撮影に協力してくれた人たちについて、「本来は現地に伺って、直接映画祭での皆の感想を届けられたら一番良いという思いもあります。僕も商業デビュー作1本目で、他のスタッフさんや土地の方々が、ここまで作品の内容を把握して、精力的にバックアップしてくださる状況は中々ないと思います。」と、この映画を応援してくれた人たちへ感謝を述べた。
【ストーリー】
秋田県・男鹿半島で暮らす、たすく(仲野太賀)は、娘が生まれ喜びの中にいた。一方、妻・ことね(吉岡里帆)は、子供じみていて 父になる覚悟が見えないたすくに苛立っていた。大晦日の夜、たすくはことねに「酒を飲まずに早く帰る」と約束を交わし、地元の伝統行事「ナマハゲ」に例年通り参加する。しかし結果、酒を断ることができずに泥酔したたすくは、溜め込んだ鬱憤を晴らすように「ナマハゲ」の面をつけたまま全裸で男鹿の街へ走り出す。そしてその姿がテレビで全国放送されてしまうのだった。ことねには愛想をつかされ、地元にも到底いられず、逃げるように上京したものの、そこにも居場所は見つからず、くすぶった生活を送っていた。そんな矢先、親友の志波(寛 一 郎)からことねの近況を聞く。ことねと娘への強い想いを再認識したたすくは、ようやく自らの愚行と向き合い、地元に戻る決意をする。だが、現実はそう容易いものではなかった…。果たしてたすくは、自分の“生きる道”、“居場所”を見つけることができるのか?
監督・脚本・編集:佐藤快磨
出演:仲野太賀、吉岡里帆、寛一郎、山中崇、余貴美子、柳葉敏郎
企画:分福/是枝裕和
配給:バンダイナムコアーツ/スターサンズ
(C)2020「泣く子はいねぇが」製作委員会
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11/20(金)より、新宿ピカデリー他全国ロードショー