「ずっとジム・キャリーに憧れてた」映画『ステップ』伊藤沙莉インタビュー
作家・重松清の同名小説を実写化した映画『ステップ』が7月17日(金)から全国公開となる。本作は、30歳の若さで妻を亡くした主人公・健一が幼い娘・美紀を育てながら、様々な人と関わる中で成長していく姿を描く。
今回、本作で美紀が通う保育園の先生で、子育てに挫けそうになった健一にとって重要な存在となる天賀みなみ(通称ケロ先生)役の伊藤沙莉さんに本作にまつわるエピソードなどお話を伺いました!
—–本作の脚本を読んで是非ケロ先生を演じたいと思われたそうですね。ケロ先生のどんな所に魅力を感じましたか?
伊藤:電車に乗っているときに脚本を読んでいて思わず泣いてしまったんですよ(笑)脚本の時点で泣けるってすごいことで、とにかくこの作品に携わりたいと思い、「通りすがりのAさん」でもいいからこの作品に出たいって言ってたんです。その中でもケロ先生は、存在感とか発する言葉とか、こんなに温かい人を演じられたらすごく幸せだなって思いました。ここまで真摯に向き合って誰かに寄り添う役って頻繁には出来ないし、登場シーンは少なくても重みのある何かを残してくれるなと脚本を読んだときに感じていたので、もし自分で選べるのならケロ先生がやりたいと思いました。
—–そして今回、見事にケロ先生役を掴んだわけですが、演じたいと望んだ役がもらえた時はプレッシャーは感じますか?
伊藤:もうプレッシャーですよ!言わなきゃよかったっていつも思います(笑)今回、飯塚監督がワークショップで『ステップ』を扱われていたので見学させてもらったんですけど、私じゃない役者さんたちがケロ先生のパートを演じているのを見て「最悪だ・・・」と思って。絶対にこれを超えないといけないし、自分にしかできないケロ先生を作り上げないと、私じゃなくてもよかったって思われちゃうなと。もちろんケロ先生に限らず役をやらせて頂くときは、私だからという意味を残したいと思っているんですけど、私だけのケロ先生が出来るかどうかはリハーサルをやるまでは不安でしたね。
—–ワークショップに参加されて、そこからヒントというか、ケロ先生を演じるうえで得るものはありました?
伊藤:ワークショップは飯塚監督が自分の中に作品を落とし込む時間という感じなんです。私はオーディションとかで人が演じているのを見ると、同じことやりたくなくなっちゃうんですよ。だからむしろ逆に幅が狭まっちゃったというのがありますね。どんどん武器がなくなっていくみたいな(笑)あとあと演技を真似したとも思われたくないし、そそくさと帰りました(笑)
—–事前のリハーサルで飯塚監督は細かく演技プランを決めていくんですか? それとも演者にお任せでやらせてもらえる?
伊藤:飯塚監督は、私たちが撮影にインするときの不安を拭うというのもあって、先にリハーサルをやって下さるんです。現場でスムーズに動けるように「ここはこういう気持ちで」みたいなイメージを伝えてくれるので、どちらかというと、お任せまでいかなくても、信じてくれてるなというのはあると思います。
—–登場していきなり派手にすっ転んだりと、元気いっぱいなケロ先生ですが、公開前から各所で話題の「カエルジャンプ」はどういう経緯で誕生したんですか?さすがにアドリブではないですよね!?
伊藤:ありがとうございます(笑)あれは現場で決めたと思います。飯塚監督から「とりあえず1回スタンダードなカエルっぽく跳んでみて」って言われたので全力で跳びました(笑)飯塚監督はいつもそうなんです。「こんな風にやってみるとしたら!?」と振られたらやるしかないんです。もう大喜利ですよね(笑)
—–脚本の時点で泣かれたという作品ですが、完成した映画をご覧なっていかがでしたか?
伊藤:脚本に書かれてないことも沢山あるし、現場で生まれたものも沢山あって全然上回ってました!自分の携わった作品が、自分の好きな作品のひとつになるって本当に幸せなことだなと思います。
—–伊藤さんは子役出身ですが、本作に限らず子役が活躍する作品を見るときに何か感じたりしますか?
伊藤:いやもう、シンプルにすごいなって思います。私が小さかった時も、神木(隆之介)君とか志田未来とか凄い人は一杯いたけど、どんどんレベルアップしているなっていうのは感じますね。それこそ美紀役の白鳥玉季ちゃんとかそうですけど、こんな顔するんだ・・・そりゃ選ばれた子たちだよなって思いました。末恐ろしい(笑)
—–今回共演された中野翠咲ちゃんとの思い出はありますか?
伊藤:カメラが回ってないところでもケロ先生って呼ばれたことが1番嬉しかったですね。翠咲ちゃんに限らず他の園児役の子たちも呼んでくれたので、そういうところから私は自覚的にケロ先生になれたんだと思います。楽しかったですね。
—–主演の山田孝之さんとは今回で3度目の共演ですが、現場での印象はいかがでしたか?毎回演じる役が変わるたびに雰囲気が違いそうですね。
伊藤:変わりますね。本人はたぶん無自覚だとおもうんですけど、作品によって顔の表情とか放ってる空気感とか全然違います。『全裸監督』で共演したときは、やっぱり近寄りづらいんですよ。今回の健一さんのときは、穏やかだけど寂しそうな顔をされてるんで、話しかけたくなるというか。やっぱ凄いなぁって毎回思います。
—–ここ数年、伊藤さんは印象的な役を立て続けに演じられて、評価も人気もうなぎ上りだと思います。実際に、ご自身での評価はいかがですか?
伊藤さん:ありがたいです。でも夢見心地というか、あまり現実味はないです。基本的にすごく嬉しいことですし、作品を見て頂けるきっかけになれるというのは、純粋に1番嬉しいことですが、このお仕事を職業としか見れてなくて、自分が芸能の仕事をしている感覚がないんです。いまだに心が素人で(笑)でもエゴサは面白いです。こういう風に思われているのかと、自分が会ったことない人に感想を抱かれるのは、良い評価も悪い評価も、すごく嬉しい事です。私デビューは小3ですけど、エゴサは小6デビューです。小6のときに2ちゃんねるを見て号泣したところから私のエゴサ人生は始まりました(笑)
—–そこからだと今は褒めてくれる評価が多いでしょう!?
伊藤:嬉しいですね!スクショしちゃいますもん。「いいね」するとなんかいやらしいから(笑)役のこととか、お芝居の事とか、作品の事で響いたものはついスクショしちゃいますね。
—–伊藤さんが役者になるうえで影響を受けた作品とか俳優ってありますか?
伊藤:私ずっとジム・キャリーに憧れてたんです。『トゥルーマン・ショー』と『ふたりの男とひとりの女』と『ディック&ジェーン 復讐は最高!』。この3本にはかなり影響を受けていると思います。『トゥルーマン・ショー』とか最初は滑稽で面白いのに、どんどん切なくなっていくじゃないですか、あれってジム・キャリーもあまりふざけていなくて、一生懸命に生きていることが滑稽だったり笑えて見えてくる。そういうことなのかなとか思ったりするんですよ、真摯にやれば届くものが絶対にあるというか。あの方がどういうアプローチしているかとか知らないし、インタビューを探ったりはしないんですけど、勝手に解釈して影響をもらっています。面白く出来る人が心を動かす瞬間っていうのは、カッコイイし憧れますね。
—–今のお話を聞いて、これまでの伊藤さんが演じられた作品を振り返るとナルホドと思う所が多いですね。今回のケロ先生にも当てはまる話で、ものすごく納得しました。最後に伊藤さんがお仕事をするうえで大切にしていることはなんですか?
伊藤:ありがとうございます。『ステップ』もそうですけど、やっぱり支えというか、周りの人たちへの感謝ですね。ひとりでデカくなったみたいな顔したら終わりだなと思うから、伸びてる感覚はないけど、例えば1ミリでも鼻が伸びてたら折ってくれる人がいると幸せだな思いますね。今のところいるので、一瞬で折られる・・・幸せな環境です(笑)
—–ありがとうございました!
伊藤沙莉(ケロ先生 / 保育士)
1994年、千葉県出身。2003年に子役としてデビュー。主な出演作に映画『全員、片想い/MY NICKNAME is BUTATCHI』(16)『獣道』(17)『生理ちゃん』(19)、ドラマ「この世界の片隅に」(TBS)「獣になれない私たち」(NTV)連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK)などがある。『榎田貿易堂』『寝ても覚めても』(18)等への出演によりTAMA映画賞最優秀新進女優賞、ヨコハマ映画祭助演女優賞を受賞。
【ストーリー】
健一はカレンダーに“再出発”と書き込んだ。始まったのは、2歳半になる娘・美紀の子育てと仕事の両立の生活だ。結婚3年目、30歳という若さで突然妻を亡くした健一はトップセールスマンのプライドも捨て、時短勤務が許される部署へ異動。何もかも予定外の、うまくいかないことだらけの毎日が始まった。そんな姿を見て、義理の父母が娘を引き取ろうかと提案してくれたが、男手一つで育てることを決める。妻と夢見た幸せな家庭を、きっと天国から見ていてくれる妻と一緒に作っていきたいと心に誓い、前に進み始めるのだ。美紀の保育園から小学校卒業までの10年間。様々な壁にぶつかりながらも、前を向いてゆっくりと<家族>への階段を上る。泣いて笑って、少しずつ前へ。
【キャスト】
山田孝之、田中里念、白鳥玉季、中野翠咲、伊藤沙莉、川栄李奈、広末涼子、余貴美子、國村隼 他
【スタッフ】
監督・脚本・編集:飯塚健
原作:重松清
配給:エイベックス・ピクチャーズ
(C)2020映画『ステップ』製作委員会
公式HP:https://step-movie.jp/