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キャンセルカルチャーと踊らされる人達への違和感『mentor』吉田恵輔監督インタビュー

『ヒメアノ〜ル』『空白』『ミッシング』など社会の片隅でもがきながら生きる人間の姿を描いてきた吉田恵輔監督。2026年は、『四月の余白』と『mentor』の2作品が公開される吉田恵輔イヤーとなる。そこでこの度、公開を控えた『mentor』について話を聞いた。重い内容でありつつもユーモアたっぷりの本作が生まれた背景とはいかに。

重厚な人間ドラマなのに、途中からは同じ監督が撮っているのか疑われるぐらいおかしな方向へ(笑)

ムービーマービー:プレス向け資料に「自分も誰かのメンターになるべき年齢になってきた」と書かれてありましたが、いつも作品のインスピレーションはどんな時に出てくるんでしょうか?

吉田恵輔監督(以下、吉田監督):そのときそのときですけど、割と自分の過去の経験を引っ張り出してくることが多いですね。この作品でいうと、冒頭の火事のシーンは、25歳ぐらいの時に近所の子どもたちが花火をやるというので面倒を見てあげていた経験が基となっています。たまたま近くの2階建てのアパートから煙が出ているのを見て、子どもたちがガタガタ震えていたんです。消防車が来た時にはもう2階まで火が行って、そしたら、子どもたちが「僕たちの花火かな?」って言うから、「いや全然違うよ!」って言ったけど、子どもたちはたぶんトラウマ的な感覚をもっただろうなと、横で見ていて強く心に残っていたんです。そこから「もし本当に自分たちの花火で起きた火事だったとしたら……」という発想で物語が浮かんで、いつか映画にしたいなと思っていました。ただ、アパートを燃やすなんて現実的じゃないし、予算的にも難しい。それがCGや技術の進歩で現実味を帯びてきたので、「書いてみよう」となったのが始まりです。

ムービーマービー:そこからどのようにして物語を組み立てていったのですか?

吉田監督:最初は本当にノープランでした。「被害者の男性と2人の子どもが出会ったら、未来がどうなっていくんだろう」というところから始めて、「さあ、この人たちどうするんだろう?」と書き進めていったんです。普段の僕はどちらかというとテーマ先行型で、例えば「恩を仇で返すやつと、見返りを求めるやつ」みたいな人間関係のテーマから物語を作り始めることが多いんですよ。でも今回は珍しく完全に「事件」からスタートした。その事件をきっかけにして、登場人物たちを動かしていく中で「罪の意識」や「反省」というテーマみたいなものが後からどんどん芽生えていったという作りですね。

ムービーマービー:普段からそうしたアイデアはノートなどに残してらっしゃるんですか?

吉田監督:ネタ帳はありますよ。すごい数のネタが書いてあって、テーマ的なネタもあれば、「フリスク取ろうと思ったら5個出た」とか、どうでもいいようなことまでいっぱい書いてあるけど(笑)。

ムービーマービー:本作の元ネタとなった火事はメモを見なくても、ずっと記憶にあったんですかね。

吉田監督:そうですね。それに、技術の話でいうと、実はあの火事のシーンってAIに描いてもらっているんですよ。CG部が、AIが作った火事の描写に対して煙を少し減らしたり微調整したりして。だから、我々は何にも燃えてないアパートで一応照明部がライトをメラメラやったぐらいで、煙ひとつないところで撮影ができてしまったっていう。そこから大火傷を負った人が出てくるので、現場の見た目としてはちょっと間抜けなんですけどね(笑)。

ムービーマービー:え〜! AIで作ったなんて全然わからなかったです。そんな衝撃的な火事から物語が始まりますが、タイトルの「メンター」という要素はどのように着想されたんですか?

吉田監督:僕自身がもうそういう年になってきたのもあって、指導者、助言者みたいなものにちょっと興味が出てきて自分に何ができるか考えた時に、『四月の余白』みたいな、ちょっと自分の実体験も踏まえて書いて。ただ、メンターみたいな存在にちょっとした胡散臭さみたいなものも感じていたんです。なんか説教臭いし、偉そうだなみたいな。

ムービーマービー:冒頭の火事のシーンも本当に怖くて、最初は重厚な人間ドラマとして身構えて観ていたんです。ところが、物語が進むにつれて「あれ、何か様子がおかしいぞ?」となりました(笑)。

吉田監督:しかもおかしくなるのが割と早くないかって(笑)。公園のシーンくらいまでは真面目に撮ろうと思って、そこから先は同じ監督が撮っているのか疑われるぐらいおかしな方向にいくので、みんなたぶんついてきてないだろうと思いながら、どのぐらいふざけていいんだろうかと、さじ加減に悩みました。

ムービーマービー:絶妙でした(笑)。印象に残るシーンとして、末澤さんが演じる拓海の土下座シーンがありました。どんな演出をされたんですか?

田監督:“あのシーン”は末澤さんとワークショップをやったんですよね。最初はあまりうまくいかなかったから、「もっと、もっと」って、ギリギリ行けるところまでやったらどうなるか試してみたんです。その時点で台本には書いてない現場でのやりとりだったから、末澤さんも「これはなんだろう」と思いながらやっていて。シリアスと笑いが共存している空気をリハーサルで掴んでいったんじゃないかなと思います。

 

この映画を観て笑っている人を、「不謹慎だな」と思って睨んでる人が横にいるようなカオスな空間が一番いい

ムービーマービー:シリアスにもコメディにも転びうる危うい世界観ですが、監督が狙う演出の塩梅と、俳優陣の演技のさじ加減はどうやってバランスを取っていたのでしょうか?

田監督:俳優陣は僕が思っていたアプローチとちょっと違っていても、結局ベースは同じで、感覚が鋭いですよね。「ここは少し笑わせにいっても、この中間の距離感にしておいた方がいいでしょ?」っていうさじ加減を役者陣が感覚で分かっている。やっぱ手練れですから。

ムービーマービー:役者陣の巧みな演技も相まって、笑いと緊張感が絶妙でした。本作はそうした人間の滑稽さを描きつつも、どこか現代社会の息苦しさを鋭く突いているようにも感じられます。監督がこの映画で1番描きたかったことは何でしょう?

吉田監督:『四月の余白』にもいえるんですけど、現代のキャンセルカルチャーのなかで、「こう反省しなきゃいけない」みたいな空気感があって。ただ、それって当人の心を覗かないとわからないと思うんです。ちょうど今日、ある謝罪動画を観ていたら、謝罪する服装じゃないとかって叩かれていていたんですが、Tシャツだから反省してない、ビシッとスーツを着ていたら反省しているって、おかしくないですか?逆に、まず反省用の服を買いに行っている時点で反省してない気がしますし、本来はとにかく謝らなきゃって、目の前にある服を着ているほうが反省しているように見えますよね?そうやって第三者が反省しているのかをラベリングする状況に違和感があるのと、ラベリングされたものに反応して当事者同士でマウントを取り合うっていう状況がずっと気になっていますね。

ムービーマービー:では、最後の質問です。全国公開されたら、監督はどんな反応が1番嬉しいですか?

吉田監督:ばらけてるのが嬉しいですね。だから、笑っている人を「不謹慎だな」と思って睨んでいる人が横にいたりするような、カオスな空間が僕からすると一番いいですけどね。「隣の人がゲスに笑っていて本当に不快だった」みたいな感想を書いている人がいたら、すごく面白いと思います。そう、それでいいんだよって(笑)。誰に感情移入するかによっても見方が変わるでしょうし、映画ってある種、お客さんが選択すればいいので、反応も自由でいいし、自由な空間だったらいいのかなと思っています。

本作には、田恵輔監督の遊び心から、過去作『空白』『ミッシング』『四月の余白』などに繋がりのある場所やアイテム、固有名詞が出てくるシーンもある。ぜひ、本作と過去作を合わせてリピート鑑賞してほしい。

取材・文:武内三穂

 

『mentor』
10月16日(金)より全国公開

監督・脚本:田恵輔

出演:磯村勇斗、末澤誠也、木南晴夏/酒井若菜、川上麻衣子、二村仁弥、黒沢あすか、田村泰二郎/綾野剛 他

配給:エイベックス・フィルムレーベルズ、スターサンズ

公式HP: https://www.mentor-movie.jp 

【ストーリー】
それは運命の再会だった。15年前に花火遊びでアパートの火事を起こした拓海(末澤誠也)の前に現れたのは、その火事で大火傷を負い、妻子を失った埜本(綾野剛)。恨んで当然の相手なのに、詫びる拓海を優しく包み込む埜本。その不思議な優しさに惹かれ、埜本を”メンター”として慕い急速に距離を縮めていく拓海。一方、拓海とともに火事を起こした龍之介(磯村勇斗)は、アーチェリー競技と出会い、オリンピック日本代表になるという夢を追いかけていた。今の龍之介にとって拓海や埜本との再会は、平穏を揺るがしかねない。埜本に触発されて被害者への謝罪にのめり込む拓海にも、不気味なほどに優しすぎる埜本の態度にも違和感を拭えない龍之介。やがて事態はまさかの方面に転がり、歪な三角関係は狂っていく。そして物語は、誰も想像しなかった結末へ。

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