日本アカデミー賞6部門受賞『新聞記者』、藤井道人監督が最後の舞台あいさつに登場!
2月15日(土) ~ 2月21日(金) の期間、T・ジョイPRINCE品川では「第43回日本アカデミー賞 優秀賞受賞作品上映会」を実施した。今回、優秀作品賞、優秀監督賞、優秀主演女優賞、優秀主演男優賞、優秀脚本賞、優秀編集賞の6部門で受賞した映画『新聞記者』の舞台挨拶が実施され、監督の藤井道人が出席した。
本作は東京新聞社会部記者・望月衣塑子の同名ベストセラーを原案に、国家権力に迫る若き新聞記者の奮闘と、政権に不都合なニュースをコントロールするエリート官僚の葛藤を描いた社会派エンタテインメント。
MCを務める共同プロデューサーの石山氏の呼び込みで登壇した藤井監督は、日本アカデミー賞6部門受賞という快挙について、「(オファーを)断らなくてよかったです(笑)」と照れ笑いを浮かべつつ、受賞した喜びをアピール。会場からは拍手が巻き起こった。
本作を手掛けることになった経緯を聞かれると、「2年前の夏に河村プロデューサーから電話をもらったんです。『あゝ荒野』だったり、韓国映画の『息もできない』を日本配給したりと、映画監督としてこういうエッジのある作品をやりたいと思っているのを全てやっている人だったので、浮かれた感じで会いに行った宮益坂のカフェで出された企画書が『新聞記者』でした。」と当時を振り返る。
しかし、オファーを受けた当初はこの企画を断っていたという。「河村さんから今の政権の話などをされたんですが、これは僕じゃないなと思ってその時はお断りしたんです。翌日また会うことになったんですけど、正直、新聞も読んでないし、選挙にも積極的に行けていないので改めてお断りしたんですけど、河村さんが『ヒミズ』の渡辺哲さんみたいなテンションで『君たちが日本の政治を・・・!』とか『君たちにバトンを受け取ってもらわないと!』など熱い話をされて。それから改めて話をよく聞いていくうちに、『あ、俺は何も知らないで逃げていただけだっのか』と気づいたんです。それで、まだまだ何者でもない若手の監督なので、1度本気で賭けてみようと思ってオファーを受けることにしたんです。」と河村プロデューサーの熱意によって気持ちが動かされたという経緯を語ってくれた。
藤井監督が合流する以前から進んでいた脚本開発については、「最初に読んだ脚本では望月衣塑子さんをはじめ、色んな方々が実名で登場していました。エンターテイメントでやるというのであれば、僕たちのような政治に関心の無い人たちが振り向くような映画を作るべきだと思ったので、自分がやるなら完全フィクションにしてほしいと話しました。詳しい人からはこんなのはあり得ないと言われるかもしれないけど、もっと映画的であった方が良いと河村さんと相談してリライトさせてもらいました。」と当初は実在する人物が多数登場する予定があったというエピソードを披露してくれた。
石山氏も脚本開発の段階から関わっており、藤井監督が合流してから脚本の文字量が一気に減って、より映画的で映像が想像しやすい方向にシフトしていったことを感じていたという。
カメラワークや照明による画作りが印象的な本作。映像面でのこだわりを聞かれると、「予算や撮影日数などは大体決まっていたので、その中でどう勝負すればいいんだろうと考えた時、コントラスト一択だなと思いました。クレーンを使ったり、エキストラを何百人も使うというのは難しいことは分かっていたので、絶対的なコントラストを意識しました。新聞社と内調のコントラストもそうです。内調があんな暗い部屋で仕事しているわけないんですが、何が起きているかを誰にも教えてくれないのなら、そう見えて然るべきであると撮影の今村圭佑と決めました。」とそれぞれの立場の違いを映像で明確にすることを心掛けた語る。
また、田中哲司が演じる杉原の上司・多田の「この国の民主主義は形だけでいいんだ」といったインパクトのある台詞について聞かれると「台詞は基本的に7割くらいは脚本の詩森さんが考えてくれたものですが、この台詞に関してはダビングという、最後の音調整作業の直前に河村プロデューサーが『田中哲司を呼んでこの台詞だけ言わせてくれ!』と言い出したものです(笑)それを言葉でなく伝えるのが映画としての魅力でしょうと説得したんですけど、絶対に言葉にした方が良いと言うので根負けして録ったんです。これはダメだろうと思ってたんですけど、いざ映画が公開するともう名台詞の評価で。監督として非常に悔しい思いをしました(笑)」と話すと、石山氏も河村プロデューサーには神懸かり的なところがあると同意していた。
主人公の吉岡エリカを演じたシム・ウンギョンさんについては、「言葉の壁があったはずのに、いろんな芝居のテクニックで様々な種類の涙を使い分けたりと、日本と韓国ってこれほどの差があるんだなと痛感したところもありました。実はウンギョンと出会って一番為になったことがあって、韓国はテイクが終わると全員でモニターチェックするそうなんです。日本は逆で、モニターチェックする役者は良くないと言われる風潮があるんです。全部署でチェックするというのを監督が推奨したらどうなるんだろうと思って、最近現場で取り入れたらすごく良いんですよ。ちょっと違うなという時も全員でチェックすると意思共有し易くなりました。」と自らの現場が進化していることを嬉しそうに語った。
そして、もう一人の主人公・杉原を演じた松坂桃李さんについては「桃李君がいなかったらこの映画は完成していないですし、これだけ評価されることはなかったと断言できるくらい感謝しています。常に現場の中心で士気を上げてくれて、『本当に公開できるんですかねえ・・・』とみんなが心の中持ってる不安とかを率先して言ってくれるし、そのうえで『やりましょう!』ということも彼が言ってくれる。」と現場でリーダーシップをとる松坂をしみじみと語る。
演技に関しては「今回はどれだけ抑えるかということを話しました。こういう映画はリアリティベースをどこに置くかが重要で、ドラマティックな演出をするのは簡単だと思うんですが、今回は必要以上に怒ったり怒鳴ったりするのはなるべく止めたいと伝えると『なるほどですね。わかりました!』で1発で決めてくれるんです。」と松坂の演技力の高さについて熱弁した。
最後に、「『新聞記者』に関して皆さんの前でお話しするのは今回と、日本アカデミー賞の2回だなと思うと心底ホッとしております(笑)自分の人生が変わった映画ですが、自分自身はまだまだだと痛感しております。日本アカデミー賞の舞台に立たせてもらえるのは自分の実力だけではないですし、皆様の期待だと思っております。厳しい観客の目がもっと必要だと思っていて、ちょっとヒットしたから、ちょっと評論家に褒めてもらったからといって、日本映画の中で井の中の蛙でいることは悔しいですし、やっぱりポン・ジュノの姿を見て刺激を受けないような監督なら映画を辞めた方がいいと感じました。20年先になるかもしれないですが、自分もそういう場所に立てるように頑張りたいと思います。」と力強い抱負を述べイベントは終了した。
第43回日本アカデミー賞の各部門の最優秀賞は、3月6日に行われる授賞式で発表される。
【あらすじ】
東都新聞の記者・吉岡(シム・ウンギョン)は、大学新設計画にまつわる極秘情報の匿名FAXを受け取り、調査を始める。日本人の父と韓国人の母を持ち、アメリカで育った吉岡はある思いから日本の新聞社に在職していた。かたや内閣情報調査室官僚の杉原(松坂桃李)は、国民に尽くすという信念と、現実の任務の間で葛藤する。
【キャスト】
シム・ウンギョン、松坂桃李 ほか
【スタッフ】
監督:藤井道人
原案:望月衣塑子「新聞記者」(角川新書刊)、河村光庸
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