ジョーカー、ポン・ジュノ、Netflix… ついにノミネート作品が発表された「第92回アカデミー賞」をディープに解説!
先日発表された第92回アカデミー賞ノミネート。色々な驚きがあり、今から授賞式が楽しみで仕方がない映画ファンも多いことだろう。そこでムービーマービー では、今回のオスカーノミネートについて思ったことや驚いたことを書きつつ、受賞作品も大予想!
授賞式の瞬間を今か今かと待ちきれない映画ファンと一緒に”アカデミー賞”を楽しみたいと思う。なおこの記事にはかなり筆者の独断や偏見が入っているので、その辺はご了承頂きたい。
『ジョーカー』は相当に強いコンテンダー
まず作品賞にノミネートされた作品のリストと候補部門数は下記の通り。
『ジョーカー』最多11部門ノミネート
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』10部門ノミネート
『1917 命をかけた伝令』10部門ノミネート
『アイリッシュマン』9部門10ノミネート
『ジョジョ・ラビット』6部門ノミネート
『マリッジ・ストーリー』6部門ノミネート
『ストーリー・オブ・マイライフ わたしたちの若草物語』6部門ノミネート
『パラサイト 半地下の家族』6部門ノミネート
『フォード vs フェラーリ』4部門ノミネート
昨年の『ブラックパンサー』に続いてアメコミ作品である『ジョーカー』が作品賞に候補入り。最多11部門ノミネートを獲得した。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、『1917』、『アイリッシュマン』は10ノミネートを獲得。他にも順当に作品評価の高い作品が順当に候補入りした印象だ。
特に『ジョーカー』の最多11部門ノミネートは大きな衝撃だった。賛否が割れていた作品だったので、そんなに多くの部門で候補入りしないのではないかと思っていたが、蓋を開ければ最多11部門候補入り。監督賞、脚色賞、編集賞など重要な部門にも候補入り。今回のノミネート結果を受けて多くの人が『ジョーカー』は想像以上に強いコンテンダーであることを示した。
注目の『パラサイト 半地下の家族』は6部門ノミネート。国際長編映画賞に候補入りしたが、韓国映画がこの部門に候補入りするのは初の快挙。ポン・ジュノが監督賞に候補入りするなど、カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞の勢いそのままに、アカデミー賞でも躍進しそうだ。
大躍進!Netflix!
今回のノミネート発表で特に驚いたのがNetflix作品の大躍進ぶりだ。昨年の授賞式時にあのスピルバーグがNetflix作品をオスカーの対象にすべきではないと発言したことが話題になったが、ノミネート結果を見ればこの大躍進ぶり。ちなみにスタジオ別で見ても一番多くのノミネートを獲得している。しかも作品賞、監督賞、演技賞の主要6部門全てにNetflix作品が名を連ねた。もはやNetflixの勢いを認めざるを得ない状況であることがはっきりした。
『アイリッシュマン』のマーティン・スコセッシ、『マリッジ・ストーリー』のノア・バームバックを始め、映画業界に多大な貢献をしてきた監督が配信サービスで伸び伸びと自分が作りたいと思っている作品を製作している現状にハリウッドスタジオはもっと危機感を持つべきだろう。
波乱!あの作品が、あの人が落選!
毎回ノミネート予想をしていてこの人は落ちないだろうと思っていた人や、あの作品は落選しないだろうと思っていた人たちが落選することがある。
今回最大のサプライズはやはり『アナと雪の女王2』のアニメーション映画賞の落選だろう。製作者組合賞やアニー賞といった重要な賞にノミネートされていたにも関わらず、ここにきてまさかの落選。ディズニー作品はここ数年毎回ノミネートされていたにも関わらず、アニメーション映画史上最大のヒットを記録しているこの映画の落選は大きな衝撃だった。ちなみにこの部門にも『失くした体』というNetflix映画がノミネートされている。
作品賞に直結する部分で言うならば『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の編集賞落選も大きな衝撃だ。作品賞の行方を占う上でこの編集賞は非常に重要で、過去5年間でこの部門にノミネートされずに作品賞を受賞したのは第87回の『バードマン』のみ。ゴールデン・グローブ賞も制して勢いに乗っていた『ワンハリ』にとっては大きな痛手になったはずだ。
演技部門で男優賞カテゴリーは大きなサプライズは無かったが、女優賞カテゴリーでは大きなサプライズが2つ。一つは主演女優賞で『アス』のルピタ・ニョンゴの落選だ。批評家賞レースで山のように勝利を築いていた彼女の落選は大きなサプライズだった。確かに『アス』はホラー映画でアカデミー賞向きの映画ではないが、ここまで高評価の作品で、その演技も非常に高く評価されていたニョンゴは大きな衝撃だった。ちなみにそんな主演女優賞に滑り込みでノミネートされたのが黒人運動家を描いた『ハリエット』のシンシア・エリヴォ。彼女も黒人女優だ。
もう一つ、助演女優賞のジェニファー・ロペスの落選だ。これまでアカデミー賞とは全くの無縁だったジェニファー・ロペスだが、彼女もまた批評家賞レースを牽引した女優。そんな彼女の落選は驚きだった。オスカーは時に残酷なことをするものだ。
祝!Wノミネート!!
今回のアカデミー賞ノミネート発表で一番嬉しかったのはやはりスカーレット・ヨハンソンのノミネートだ。しかも主演女優賞『マリッジ・ストーリー』と助演女優賞『ジョジョ・ラビット』でのWノミネートだ。
2019年は『アベンジャーズ/エンドゲーム』で歴代No1ヒットを記録。ノミネートされた2作品も高い評価を受け、『ジョジョ・ラビット』はトロント国際映画祭で観客賞を受賞した。2019年はまさに彼女の年だったと言っていいかもしれない。そんな中で勝ち得たWノミネート。女優では9人目の偉業で第80回のケイト・ブランシェット以来だ。
『ロスト・イン・トランスレーション』、『真珠の耳飾りの少女』、『マッチポイント』、『her』とこれまで何度もオスカー候補になるチャンスがあったにも関わらず彼女はチャンスに恵まれなかった。映画ファンは彼女のオスカーノミネートをどれだけ待ち望んだことか!おめでとう!!
★予想する
ここからは受賞予想をしていく。ただし、最も重要と言われている各種組合賞が発表されていないので、あくまで現時点での予想である。組合賞の結果次第では変わる可能性があるのをご了承いただきたい。今回は作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞の主要6部門を予想していこう!
【作品賞】
本命:なし
対抗:『ジョーカー』、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』『パラサイト 半地下の家族』、『1917 命をかけた伝令』
大穴:『アイリッシュマン』、『マリッジ・ストーリー』
まだ製作者組合賞が発表されていない現在の状況では本命は「いない」としか答えられない。ただ受賞の可能性があるのは『ジョーカー』、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、『パラサイト 半地下の家族』、『1917』の4作品が最も受賞の可能性が高いと思われる。ゴールデン・グローブを受賞した『ワンハリ』と『1917』が少しだけ抜けているが、製作者組合賞の結果次第で大きく変わるだろう。
なお作品評価が高い『アイリッシュマン』と『マリッジ・ストーリー』は恐らくオスカーはまだNetflix作品にその年の顔となる作品賞は受賞させないだろうと思い、大穴にした。
【監督賞】
本命:サム・メンデス
対抗:ポン・ジュノ、クエンティン・タランティーノ
大穴:トッド・フィリップス
作品賞同様に絶対的な本命がいるわけではないが、強いて挙げるとしたらサム・メンデスだろうか。ただし彼はすでに一度この部門での受賞経験がある。余程の支持がないと一度受賞している人は避けられてしまうかもしれない。ゴールデン・グローブ賞は受賞しているが、監督組合賞の結果次第で一気に変わる可能性がある。
批評家賞レースで強かったのはポン・ジュノだが、オスカーの歴史の中、アジア映画でこの部門を受賞したアジア人監督は歴史上一人もいない。
そう考えるとまだ受賞歴がないタランティーノは票が集まりやすいかもしれない。コアなファンが多い監督だし、アカデミー会員で一番多いのは俳優である。タランティーノは俳優人気が高い監督だ。
大穴はトッド・フィリップスと予想。『ジョーカー』が相当に強い作品であることから、彼の受賞の可能性も決して0ではない。結局この部門も監督組合賞次第だ。
【主演男優賞】
本命:ホアキン・フェニックス
対抗:アダム・ドライバー
大穴:アントニオ・バンデラス
『ジョーカー』はこの人無しでは成立し得なかったことを考えればやはり彼がこの部門のフロントランナー。ゴールデン・グローブ賞も受賞した。これまで受賞歴も無いのもプラスになるだろう。ただし投票するのが感情のある人間であることを忘れてはいけない。彼をよく思っていない人間が多いのもまた事実なのだ。
アダム・ドライバーはその点クリーンなイメージで好かれている俳優だ。2年連続のノミネートも彼の勢いを感じさせる。『マリッジ・ストーリー』は21世紀の『クレイマー、クレイマー』と言われるほどの人気の作品。ホアキンを追い抜く可能性は十分にある。
大穴はアントニオ・バンデラスと予想。外国語演技でこの部門を受賞するハードルは並大抵のものでは無いが、実は批評家賞レースでも勝利を稼いでいた。ビッグサプライズを起こす可能性は0では無いだろう。
【主演女優賞】
本命:レニー・セルヴィガー
対抗:スカーレット・ヨハンソン
大穴:シアーシャ・ローナン
伝説の女優ジュディ・ガーランドを演じたレニー・セルヴィガーがこの部門のフロントランナー。批評家賞レースはもちろん、ゴールデン・グローブ賞も受賞。前回受賞の『コールド マウンテン』を上回る評価を獲得している。ジュディ・ガーランドも成し得なかった主演女優賞受賞は目の前だ。
対抗はスカーレット・ヨハンソンだ。2019年は彼女の年と言えるぐらいに大活躍を見せてくれた。『マリッジ・ストーリー』の作品評価も大変高く、彼女が受賞しても全く不思議では無い。ただしWノミネートという偉業は裏で返せば票が割れる可能性が高いことを表している。
大穴は『若草物語』のシアーシャ・ローナン。実は今回6部門ノミネートという大活躍。その映画を牽引しているのが彼女だ。まだ25歳だがこれで4回目のノミネート。個人的に僕が大好きな女優さんなので大穴に入れました。
【助演男優賞】
本命:ブラッド・ピット
対抗:なし
大穴:ジョー・ペシ
この部門は正直ブラッド・ピット以外には考えられない。もちろんゴールデン・グローブ賞受賞というのは大きいのだが、何よりこの部門は彼以外、既に一度オスカーを手にしている俳優だ。必然的に彼に票が集まりやすくなる。近年は俳優としてだけでなく、プロデューサーとしても活躍し、プロデューサーとしてオスカーを受賞している。そんな彼が遂に俳優としてオスカーを手にする時が来たということだ。
対抗はいないが唯一、蹴落とせる可能性があるとすればジョー・ペシだろう。批評家賞レースで唯一ブラピに張り合っていた人物である。『アイリッシュマン』の作品評価も高い。でも今回は流石に厳しいか。というか既に1つ持っているから要らないよね?
【助演女優賞】
本命:ローラ・ダーン
対抗:フローレンス・ピュー
大穴:スカーレット・ヨハンソン
対抗になると見られていたジェニファー・ロペスがまさかの落選でローラ・ダーンが受賞最短距離。これまで一度も受賞したことがない名女優が遂に栄光を手にする時が来たのかもしれない。ゴールデン・グローブ賞も受賞。その勢いは増すばかりだ。
対抗はここに来て急浮上した『若草物語』のフローレンス・ピュー。実はこの部門は新人女優が受賞しやすい部門で、アンナ・パキン、マリサ・トメイ、ジェニファー・ハドソン、ルピタ・ニョンゴなど新人の女優がいきなり受賞することも少なくない。ちなみに彼女は話題のアリ・アスター監督の新作『ミッドサマー』に主演。まさに今が旬の女優。受賞しても不思議はない。
大穴はWノミネートを果たしたスカーレット・ヨハンソン。主演女優賞でも彼女は本命ではないが、史上初のWノミネートW受賞の希望を彼女に乗せたいと思って大穴に指名した。
最初にも述べたがあくまで“現時点での”受賞予想だ。組合賞の結果次第で状況はいくらでも変わる。果たしてどの作品が、誰がオスカーの栄光を勝ち取るのか?
第92回アカデミー賞授賞式は日本時間2月10日に行われる。 (編集部:西)
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