映画『宝島』撮影現場レポート/「コザ暴動」を再現する、大友啓史監督の熱量と信念の映画づくり。
作家・真藤順丈が戦後の沖縄を舞台に、史実の陰に埋もれた真実に光を当てた傑作小説『宝島』が実写映画化され、2025年9月19日に公開される。
物語は1952年、アメリカ統治下の沖縄から始まる。米軍基地から物資を奪い、生活に困る人々に分け与えていた若者たち“戦果アギヤー”と呼ばれる彼らの活動を軸に、仲間の失踪、時代の変化を経て、登場人物たちは20年近い歳月を歩み、1970年に実際に起きた「コザ暴動」へとたどり着く。
メガホンを取ったのは、大河ドラマ「龍馬伝」、『るろうに剣心』シリーズや『レジェンド&バタフライ』など、数々の話題作を手がけてきた大友啓史監督。主人公グスクを妻夫木聡、幼なじみのヤマコを広瀬すず、ヤクザのレイを窪田正孝、戦果アギヤーのリーダーで英雄的存在のオンちゃんを永山瑛太が演じ、日本映画界を代表するキャスト陣が、戦後沖縄の激動の青春を体現する。
クライマックス「コザ暴動」の撮影現場に密着
2024年5月末、東宝スタジオで本作の撮影現場が一部メディアに公開された。この日撮影されていたのは、物語終盤の山場となる1970年に起きた「コザ暴動」のシーン。米兵による交通事故をきっかけに市民の怒りが爆発し、米軍施設が焼き討ちにまで発展した実在の事件だ。
撮影セットには、当時の嘉手納基地ゲート通りを再現した街並みが作られ、看板や電柱、焼け焦げたビンテージカーなど細部まで作り込まれていた。そこに大勢のエキストラが加わり、緊迫した暴動の空気が作り上げられる中、グスク(妻夫木)が群衆の中から、フェンス越しに基地内へ入ろうとするレイ(窪田)を見つけ、必死に叫び止めようとするシーンが撮影されていた。大友監督は群衆の中に自ら入り、何度も細かい演技指導を行いながら、現場全体をリードしていた。
当時の怒りと混乱、そして個々の感情がぶつかり合うあの夜の再現に挑んだこのシーンは、登場人物たちの関係性や物語の転換点にも深く関わってくる。監督がこだわり抜いた群衆の動きや熱量、セットのリアリティ、そして役者たちの表情と身体の熱。それらがどう編集され、音響と音楽と共にスクリーンに現れるのか。現場で感じられた“熱”が、果たしてそのまま観る者に伝わるのか。それを確かめる日が今から待ち遠しい。
社会派映画ではない
大友監督が描いた若者たちの怒りと青春
撮影の合間、大友監督はメディアの前に登場しインタビューに応えてくれた。
「1970年代以前の沖縄をどうしても撮りたかった」と語る監督は、かつてNHK連続テレビ小説「ちゅらさん」の制作を通じて沖縄に深く関わるなかで、「本土復帰以前の沖縄を知らずに、今の沖縄の人たちの感情は語れないと思った」と感じるようになったという。今回はその想いをもとに、復帰前という特異な時代を、観客に追体験してもらえるような映画を目指した。
本作について監督は、「社会派映画ではない。あくまで若者たちの青春を描いたつもり」と語る。基地に忍び込み、物資を持ち出していた“戦果アギヤー”の行動も、当時の沖縄では飢えや生活苦の中で生まれたものだった。米兵に見逃されることもあり、米軍に頼りながらも反発するという矛盾した構造の中で、人々はそれぞれに折り合いをつけて生きていた。
コザ暴動のシーンについては、「一晩で終わった暴動なんですよ。死者も出ていない。翌朝には、暴動に加わった人たちが、まるで何事もなかったように仕事に向かっていた」と語る。事件が起きたのは1970年12月19日の深夜、クリスマスを間近に控えた週末だった。基地の近くでは多くの人が飲食店に集まり、それぞれに過ごしていたという。その少し前に、糸満市で米兵の車によって主婦がはねられた事故が発生し、それが引き金となり以前から蓄積していた不満や怒りが広がっていった。
「活動家もいれば、ただ飲んでいただけの人もいた。バーで働く女性の中には、基地がなくなったら生活が立ち行かないと考えていた人もいた。車をひっくり返す人がいれば、エイサーを踊っていた人もいたという証言もある」と話し、監督は当時を知る人々の声に耳を傾けながら、雑多な空気を再現しようとした。
暴動の感情をどう描くか、その演出にあたっては慎重な判断が求められたという。「“怒りをぶつけてください”とだけ指示するのは簡単だけど、それでいいのか。もちろん怒りは根底にあるけれど、それだけでは説明できない。酒に酔っぱらい、家庭のストレスだったり、日々の暮らしへの不安……いろんな感情が混ざっていた。ある種、お祭りのようだったという声もあった」
映画の英題は「HERO’S ISLAND」。そこには、誰が何を信じてどう行動したのかという問いが込められている。「ヒーローっていうのは、その人が何を大切にしたかで決まるもの。受け取る側によってその価値は変わる」と監督は言う。絶対的な正義の象徴ではなく、それぞれの視点から見える“ヒーロー像”を観客に委ねたいという想いがある。
脚本作りは2019年から始まり、撮影はコロナ禍で二度の延期を経てようやく実現した。主要キャスト4人は企画の初期段階からイメージされていたメンバーのまま変わらず、長期にわたって撮影を待ち続けてくれたという。「“不屈”という言葉が、最後まで自分たちを支えてくれた」と監督は振り返る。
映画『宝島』は幾度もの延期を経てもなお、沖縄の歴史と誠実に向き合い続けた大友監督の熱意が隅々にまで宿っている。語られなかった人々の声をどうすくい、どう映し出すのか。その答えは、9月19日、劇場のスクリーンで確かめてほしい。
『宝島』
2025年 9月19日(金)より全国公開
【ストーリー】
1952年、沖縄がアメリカだった時代。米軍基地から奪った物資を住民らに分け与える‟戦果アギヤー“と呼ばれる若者たちがいた。いつか「でっかい戦果」を上げることを夢見る幼馴染のグスク(妻夫木聡)、ヤマコ(広瀬すず)、レイ(窪田正孝)の三人。そして、彼らの英雄的存在であり、リーダーとしてみんなを引っ張っていたのが、一番年上のオン(永山瑛太)だった。全てを懸けて臨んだある襲撃の夜、オンは「予定外の戦果」を手に入れ、突然消息を絶つ…。残された3人はやがて、憧れのオンの失踪の謎を追いながらも、「オンが目指した本物の英雄」を心に秘め、やがて警察、ヤクザ、小学校の先生になり、それぞれの道を歩み始める。しかし、アメリカに支配され、本土からも見捨てられた環境では何も思い通りにならない現実に、やり場のない怒りを募らせ、ある事件をきっかけに抑えていた感情が爆発する。そして、オンが基地から持ち出した”何か“を追い、米軍も動き出すー。消えた英雄が手にした“予定外の戦果”とは何だったのか?そして、20年の歳月を経て明かされる衝撃の真実とはーー。
出演:妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太
監督:大友啓史
原作:真藤順丈「宝島」(講談社文庫)
配給:東映/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©真藤順丈/講談社 ©2025「宝島」製作委員会
公式サイト:https://www.takarajima-movie.jp
オフィシャルX:https://x.com/takarajimamovie
オフィシャルInstagram:https://www.instagram.com/takarajimamovie/
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