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森達也「日本人は少し i が足りない」『i-新聞記者ドキュメント-』外国特派員協会記者会見

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オウム真理教を題材にした『A』やその続編『A2』、そしてゴーストライター騒動の渦中にあった佐村河内守を題材にした『FAKE』などで知られる森達也が、東京新聞社会部記者・望月衣塑子の姿を通して日本の報道の問題点、ジャーナリズムの地盤沈下、ひいては日本社会が抱える同調圧力や忖度の正体に迫る社会派ドキュメンタリー『i-新聞記者ドキュメント-』がいよいよ今週末の11月15日(金)より公開がスタートする。

第32回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門で作品賞を受賞した本作。今回、森達也監督と河村光庸プロデューサーが外国特派員協会記者会見に出席し質疑応答に応えた。当日は会見前の試写会から会場は満席という盛況ぶりで、映画に感銘を受けた海外の記者たちが2人に感謝述べる場面も多かった。

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Q:映画の最後で「i」と「we」についてのメッセージがありました。日本では「i」を強くしないといけないという事なのでしたが、それで問題は解決するのでしょうか?西洋では「We」を強調しつつあります。

森達也:人は西洋でもアジアでも群れる生き物だと思います。群れるからこそ、文明というものを僕たちは持つことが出来て、この地球上で1番栄えてる生き物になったわけですよね。でも、群れには副作用があります。皆が同じように動くことです。魚の群れみたいに。この時に人類は大きな過ちを犯します。「We」はもちろん大事です。でも「i」も大事なんです。僕は日本人は少し「i」が足りないのでもっと出した方が良いと思っています。

Q:「i」を小文字にしたのはどういう哲学ですか?

森達也:最初は大文字にしようと思ったんですが、カッコ悪いんです。数字の1に見えてしまう。だから小文字にしました。全然大した理由じゃないんです。

Q:この映画で取り上げた事件は「辺野古の埋め立て問題」と「森友学園問題」と「伊藤詩織さんの性暴力被害」でしたが、撮影期間中に他の気になる事件はありましたか?

森達也:撮り始めたのが去年の12月で、今年の10月まで撮ってました。その間にも色んな事件、事故、災害も日本では起きています。この映画で取り上げた事件は、とても大きなものだったのに、いつの間にかほとんどの人が忘れてしまっていることがずっと気になっていました。それは望月さんも同じで、彼女は社会部ですけど、日々の報道もやりつつ、調査報道もやらなければいけないという意識を持っていたと思います。僕はかつてテレビでの報道番組で仕事をしましたが、その頃よりも調査報道の番組がものすごく減っています。それはやはり日本人が新しい物、刺激的なもの、与えられたものにすぐ反応するから「結局あの事件はなんだったのか」と分からなくなる。僕や望月さんはそう思っていました。それでこの映画で、この事件たちがフィーチャーされた理由だと思います。

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Q:川村さんは最前線で戦っているプロデューサーです。映画業界の中の空気はどう感じていますか?

河村光庸:直接的な政治的圧力はほとんどなかったんですが、テレビでこの映画を宣伝できないので、最初からテレビは諦めていました。色んな意味でメディアからの圧力は感じています。でも『新聞記者』が大ヒットしたので、今は全く感じないし、ドンドンやろうと思ってます。ドンドンぶつかって行こうと。映画のヒットこそが私の勇気になります。

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Q:望月さんは、真っ当な職業倫理に基づいて仕事をしているように見えます。映画では望月さんを特異なものとして描いていますが、何故そのように見えてしまうのでしょうか。

森達也:かつて僕はテレビのディレクターとして「オウム真理教」のドキュメンタリーを撮りました。あの時は朝から晩までオウムの特番をやっていて、オウムを撮らないことには仕事にならない時期だったので、オウムに行ってネゴシエーションして撮ったんですが、あとから他は誰も撮ってないことに気付いたんです。僕は普通の事をやっただけなのに、僕だけが浮いてしまった。周りが地盤沈下していたんです。望月さんも同じです。政治権力に質問をする。答えに納得できなかったらもう1回同じ質問をする。これ、記者としては全然当たり前のことですよね。でも、彼女がこれだけ注目されて、ついには映画にまでなってしまった。何故か。周りが地盤沈下してるからだと思います。

日本のメディアは今本当にどうしようもない状態です。じゃあ、日本のメディアだけがどうしようもないのかというと僕は違うと思います。メディアと社会は合わせ鏡です。社会も3流です。その3流の社会が選んだ政治家も3流です、つまりこの国は3流の国なんだっていうことを日本人は意識したほうがいいと思います。いつまでも神の国だとか、1流の国んだみたいな意識に溺れないでしっかり現実を見つめて、そこから少しでもグレードアップする方法を見出さないと本当にダメな国になってしまうと思っています。

Q:望月さんの姿勢を他が見習って変わっていく可能性はあると思いますか?

森達也:難しいかもしれないですね。ただ、このままではいけないという気持ちを、記者たち一人一人が持てば、別に望月さんの影響を受けなくても、この映画を観なくても変われる記者はいっぱいいる。実際に望月さんのような派手な動きはしてないけど、今の日本のジャーナリズムはおかしいと思ってる記者は沢山います。彼らがもう少し増えてくれれば、何かのはずみで劇的に変わる可能性はまだ残されていると思います。あるいは、この映画を1千万にが観たら変わるかもしれませんね。

河村光庸:私自身がプロデューサーとして感じていることは、恐れることはないという事です。相手は政治権力ではなくて同調圧力。自分たちで作り出している。空気のような幻を怖がっているだけであるというのは、私が実感として感じたことなので、恐れることはないです。とくに日本人のジャーナリストの方々はそう思った方が良いと思います。

新聞記者ドキュメント

出演:望月衣塑子

監督:森達也

企画・製作:河村光康
エクゼクティヴ・プロデューサー:河村光康

監督補:小松原茂幸
編集:鈴尾啓太 
音楽:MARTIN (OAU/JOHNSONS MOTORCAR)  

配給:スターサンズ

©2019『i –新聞記者ドキュメント-』製作委員会

11月15日(金)より、新宿ピカデリー他、全国順次公開