【プロが見たこの映画】ファッションのプロが語る「ラーメンに嘘をつくこと」
「夜ご飯食べた?しゅうまい弁当ある」
その一言でさっき食べたばかりの家系ラーメンもライスも生ビールも無かった事になる。
しゅうまい弁当を持って帰ってきてくれた気持ちと、会いたい気持ちと、しゅうまい食べたいな…という気持ちとがミックスされると家系ラーメンもライスも生ビールも、食べていなかった事になるのだ。正確にいうと腹にはあるが記憶からはなくなる。そしていつもはち切れそうに膨らんだお腹にドン引きし、パンパンに浮腫んだ顔で朝を迎える。時には胸焼けもセットで。
そういう、どうでも良いようで、どうでも良くないような“嘘”を日々重ねて生きている。
そんな、なんでもない日々の延長に『アンダーカレント』は存在していると思う。
『アンダーカレント』には「人をわかるってどういうことですか?」というセリフが登場する。
人をわかるってどういうことだろう?
ウーバーイーツ禁止令を発足した当日に、徒歩2分でコンビニに着くのにも関わらずウーバーイーツでさけるチーズを頼んでいるような自分には自分のことすら本当に理解が出来ない。頭がおかしいと思う。だからこそ、自分以外の人間をまるっと理解するなんてとんでもないことだ。
ただ、全てを分かることは出来なくても、分かろうとすることはウーバーイーツをやめられない私にも出来る。雨で配達員さんが大変だから今日はウーバー頼むのやめよう、あの人今寒くないかな?暑くないかな?いつもより元気がないけど何かあったのかな?しゃがんでいるけれど探し物かな?まだ働いているからお腹が空いているかもしれない、しゅうまい弁当を渡してあげよう…
寄り添ってくれたしゅうまい弁当が嬉しくて、ラーメンに嘘をついたのだ。
誰かが嘘をつくとき、必ず隠したい“何か”が同時にそこに存在している。
それは食べたはずのラーメンだったり、はたまた失敗を誤魔化したかったり、自分を守るためだったり、保身の為だったりもするけれど、誰かを守りたかったり、時にはその嘘に救われることだってあると思う。
そうやって“嘘”に傷つけられたり救われたりして、人生は続いていくし、知らなかった事を知って絶望する時もあるだろうし、知らなかった事を知って泣いて喜んだりもするだろう。
お腹が空いていると思って、誰かが持ってきてくれたしゅうまい弁当がそこにあるなら、喜んでラーメンを食べた自分に嘘をつきたい。これからも日々そうやって、どうでも良いような“嘘”を重ねて生きたい。
映画ファッションマニア つみき
『アンダーカレント』10月6日(金)公開
監督:今泉力哉
出演:真木よう子、井浦新、リリー・フランキー、永山瑛太 他
(C)豊田徹也/講談社 (C)2023「アンダーカレント」製作委員会
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