【プロが見たこの映画】ファッションのプロが語る「「無関心な知恵より、情熱的な狂気の方がいい」引退宣言のグザヴィエ・ドランに告ぐ」
17歳“僕は母を殺した”
これはグザヴィエ・ドランが19歳で初監督・主演を務めた作品『マイ・マザー』のキャッチコピーだ。
当時のバイト先であった地元の寂れたTSUTAYAの、ほとんど誰も立ち止まらないようなミニシアターコーナーにおもむろに陳列された『マイ・マザー』は、尖りまくっていた19歳の私のバイト時間を奪う条件を満たしすぎていた。ちなみに、どのくらい尖っていたかというと、専門に通っていたので大学生を毛嫌いし(今はそんなことないですよ)髪の毛は襟足を刈り上げキンキンに色を抜いてバイトの時はウィッグをかぶったりしていた。(TSUTAYAは派手髪禁止のため)居酒屋のキャッチのお兄さんにその髪型は罰ゲームですか?と言われたこともあった。この件は未だに許していない。
『マイ・マザー』
話は逸れたが、それまで邦画中心で洋画もホラーやサスペンスばかり観ていた当時の私にはグザヴィエ・ドランの作品がとにかく衝撃的で、話は全然頭に入ってこないのに画面から目が離せない、という魅力に取り憑かれ(話が全然頭に入ってこないのは私の教養の問題なので気にしないでください)初めて映画を観て監督という存在を意識するようになり、そこからグザヴィエ・ドランの映画を追いかけ続けた。以前、本コラムで映画館で4回観たと紹介した『Mommy/マミー』もその一つだ。
『Mommy/マミー』
Photo credit : Shayne Laverdiere
なので、つまり、私が映画にのめり込む入り口を作ったのは紛れもなくドランであって、もちろんドランがいなければ私が今この記事を書くこともなかったわけで、だから先日Twitterのタイムラインに突如現れた「グザヴィエ・ドラン34歳、引退へ」の文字に全身の力が抜けきった。
だが、全身の力が抜けると同時に、ドランは19歳から映画監督を始めて今日までずっと、命を削り続けてきたのだと、彼の作品からほとばしるエネルギーが全てを物語っているようで、喉がギュッと詰まるような思いに、ただ悲しいだけでなく創造することの過酷さを恐いほどに感じてしまった。
でもだからこそ、ドランの映画は衝撃的に美しく、あの頃の私はドランの命の片鱗みたいなものをスクリーンから、画面から、感じ取っていたのだと思う。
「望むことに限界はなく、夢を抱き、挑戦し、努力し、あきらめなければ、どんなことでも実現可能なのです。僕がこの賞を受賞したことこそが、その証にほかなりません。」
9年前の5月、カンヌ国際映画祭コンペティション部門にて『Mommy/マミー』が審査員賞を受賞した当時25歳のグザヴィエ・ドランが受賞スピーチで述べた私の大好きな言葉だ。
そして2年後、同じ舞台に立ち、『It’s Only The End Of The World(原題)』(『たかが世界の終わり(邦題)』)でグランプリを受賞したドラン監督がスピーチで述べた言葉は今もまだ、脳みそにこびり付いている。
「闘いは続きます。これからも人々に愛される、あるいは嫌われる映画を作るでしょう。
それでも、アナトール・フランスが言ったように、“無関心な知恵より、情熱的な狂気の方がいい”のです。」
グザヴィエ・ドラン監督、本当にお疲れ様でした。
映画ファッションマニア つみき
『たかが世界の終わり』(2016)
監督・制作・脚本:グザヴィエ・ドラン
出演:ギャスパー・ウリエル、レア・セドゥ、マリオン・コティヤール、バンサン・カッセル、ナタリー・バイ ほか
(C)Shayne Laverdiere, Sons of Manual
『Mommy/マミー』(2015)
監督・制作・脚本・衣装・編集:グザヴィエ・ドラン
出演:アンヌ・ドルバル、スザンヌ・クレマン、アントワーヌ・オリビエ・ピロン ほか
(C)2014 une filiale de Metafilms inc.
『マイ・マザー』(2009)
監督・制作・脚本・衣装:グザヴィエ・ドラン
出演:グザヴィエ・ドラン、アンヌ・ドルバル、スザンヌ・クレマン、フランソワ・アルノー ほか
(C)2009 MIFILIFILMS INC
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