【プロが見たこの映画】ファッションのプロが語る「“善意を浴び続ける”ということ」
私は莉奈みたいな女の子になりたかった。
「 ENDROLL エンドロール〜業界人に聞いてみた」で取材させていただいた雨無麻友子さんがプロデューサーを務めた映画『生きててごめんなさい』(2月3日公開)を試写で拝見させていただいた。
まさかこんなにも感情を掻き乱されるなんて。平日の夕方だというのに、これからまた会社に戻るというのに、映画好きのあの子やあの先輩と…いやこの映画を観た誰でもいい、誰でも良いから話を聞いて欲しかった。そんな抑えきれないような感情を抱えながらも何食わぬ顔で電車に乗った。
ストーリーはこうだ。
何をやっても上手くいかず、いくつもバイトをクビになっている清川莉奈と小説家を夢見て出版社の編集部で働く園田修一。2人は出逢い同棲を始める。
ひょんなことから修一と同じ出版社で働くことになった莉奈は、周囲からチヤホヤされて取引先からもお気に入り。次第に修一は莉奈に嫉妬心を抱き、喧嘩が絶えなくなり—。
莉奈は失敗ばかりですぐ泣いてしまうし、忙しい相手に空気を読まず話しかけたり、夜中に急に撹拌し始めたりする。それでも私は、莉奈みたいな女の子になりたかった。
なぜならば、彼女の行動や言動には1ミリも悪意が存在しないからだ。
人間誰しもが善意だけで生きていきたいものだけれども、これがそう簡単なことではなくて、時には誰かを蹴落としたくなる瞬間や才能を羨んで嫉妬してしまうこともあるだろう。
剥き出しの善意を1番近くで浴び続けることは時として残酷だ。眩しすぎる光を浴び続けると当然ながら視界は眩む。修一は善意を浴び過ぎて眩んでしまったんだと思う。一度眩んだ修一の視界にはずっと眩しかった莉奈の残像がこびりつくだろう。
私は完全に浴び続けて眩んでしまう修一側の人間なので、眩しかった人たちの残像がやっぱり今も脳みそのどこかにずっといて、けれどその残像は時として背中を押してくれたり、どうしようもなく苦しい時に毛布みたいに優しく包んでくれたりもする。
だから眩み続けるのも意外と悪くない。でもやっぱり莉奈に、眩しい側の、浴びせる側の人間になりたくてこれからも、もがいて生き続けるのだろう。
まずは、蟹の足を投げるところから始めようか。
映画ファッションマニア つみき
『生きててごめんなさい』2023年2月3日公開
監督:山口健人
企画・プロデュース:藤井道人
出演:黒羽麻璃央、穂志もえか
本作のプロデューサー、雨無さんのインタビュー記事はこちら⇓⇓
前編「映画と人が導く人生」
後編「覚悟を決めたら、やり通す」
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