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『ソフト/クワイエット』ベス・デ・アラウージョ監督インタビュー(前編) 襲われる被害者ではなく、襲う加害者を描いたスリラー!? 嫌悪感たっぷりな怪作はどうやって生まれた?

『ゲット・アウト』『セッション』のブラムハウス最新作
『ソフト/クワイエット』
ベス・デ・アラウージョ監督インタビュー(前編)
襲われる被害者ではなく、襲う加害者を描いたスリラー!? 
嫌悪感たっぷりな怪作はどうやって生まれた?

取材:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

 

5月19日(金)より、苛烈な人種差別を題材にした不快指数MAXのホラー、『ソフト/クワイエット』が日本公開となる。『ゲット・アウト』や『透明人間』など、ホラー映画の制作を得意とするブラムハウス・プロダクションズが新たに放つ自信作だ。

本作で長編デビューを飾り、高い評価を受けているベス・デ・アラウージョ監督は、母親が中国系アメリカ人で父親がブラジル出身。米国・ブラジル両方の国籍を持っており、過去には人種差別も経験している。しかし意外にも本作は、白人至上主義者のエミリーたち女性集団がアジア系の女性におぞましい行為を働く様子を、長回しかつ加害者視点で描いている。今回、幸運にも監督とのオンラインインタビューの機会に恵まれた。公開前と公開後の2回に分けて、彼女自身と底知れぬパワーを秘めている本作の中身に迫っていこう。

ベス・デ・アラウージョ監督

インタビューの前に、ひとつ知っていただきたい事件がある。本作が作られるきっかけになった事件だ。2020年5月25日、ニューヨークのセントラルパークにて、バードウォッチング中の黒人男性と犬を連れた白人女性エイミー・クーパーの間にトラブルが起こった。エイミーが警察に「アフリカ系アメリカ人の男に脅されている」と通報したのだ。しかし実際は、男性はエイミーに公園のルールに則って犬にリードを付けるように促し、犬におやつをあげようと手招きしただけだった。エイミーが叫ぶなど過剰な反応をしたので男性は自衛のため動画を撮影。動画は瞬く間に世界中に拡散され、エイミーは人種差別的な虚偽の通報をしたとして翌日勤務先を解雇された。奇しくも、この日は大規模なBLM運動のきっかけとなったジョージ・フロイド氏が亡くなった日でもあった。

 

 

以下がインタビュー(前編)となる。

Q.主人公の幼稚園教師エミリーのように、教育現場に白人至上主義者がいることが怖ろしかったのですが、このキャラクターを作るためのリサーチはされましたか?

デ・アラウージョ監督:エイミー・クーパーの動画に怒りを覚えて作り始めたキャラクターだったのですが、そういう風に自分に大きな影響を与えた女性には人生で何度か出会いました。そのひとりが小学2年生の時の教師で、有色人種の生徒には明らかに他とは異なる差別的扱いをしていました。当時は幼かったので理解できていませんでしたが、大人になってから思い返すと「ああ、そういうことだったんだ」と。特にその教師の影響が大きいので、制作会社のひとつの名前が「セカンド・グレード・ティーチャー・プロダクションズ」になっています。

Q.本作はホラー、スリラーと呼ぶにふさわしい作品ですね。監督の出自的にも、被害者側が主人公になっても良かったと思いますが、どうして加害者側を主人公にしたのですか?

デ・アラウージョ監督:良い質問ですね。(少し考えて)この物語的に、被害者は変化する人物になりにくいと思います。差別されるのは彼女らのせいではないし、間違いを犯してもいない。物語の中で学ぶべきことなんてないわけです。ただ被害を受けているだけで。なので、今回のアプローチとしては加害者目線の方が面白いのではと思ったんです。普通の女性がいかに過激になっていくかをひしひしと感じられるのではないでしょうか。

Q.脚本を書く上での精神的負荷についてはいかがでしたか?

デ・アラウージョ監督:まさに、感情の面で一番厳しい作業が脚本作りでした。精神的に非常にダークな場所に自分を置かなければなりませんでしたし、公私においてハッピーな気持ちにはなりにくかったです。人間には限度があるので、早くその状態を抜け出すために短期間で書き上げました。ですが、それは重要なプロセスだったと思います。特に現場で、各キャラクターがどのような気持ちであるかを俳優たちにきちんと説明できたので。

Q.少しここでライトな質問をさせてください。お好きなホラー映画はありますか?

デ・アラウージョ監督:私はホラーファンではなくて、ホラーはあまり見ないんです(笑)。今回はブラムハウス・プロダクションズが関わっているので、皆ホラーだと思って見てくれるのが面白いですが。ホラーで好きなのは…『セブン』でしょうか? 『セブン』はホラーになりますか? (こちらが頷くと)では、『セブン』です(笑)。

さらに本編の詳細な部分に踏み込むインタビュー後編は本作公開後にアップ予定だ。乞うご期待!

 

ベス・デ・アラウージョ(監督・脚本)
サンフランシスコ生まれ。カリフォルニア大学バークレー校で社会学の学士号を取得し、American Film Institute では MFA を取得した。いくつかの短編作品を制作後、本作で長編デビューを果たしSXSW2023でプレミア上映され審査員特別賞にノミネートされるなど高い評価を得た。特に批評家から絶賛されている。2017年フィルムメイカー誌が選ぶ「インディペンデント映画界の新顔25人」に選出。母親は中国系アメリカ人で、父親はブラジル出身。ブラジルと米国の2つの国籍を有している。『ドント・ウォーリー・ダーリン』(22)、『エターナルズ』(21)に出演したジェンマ・チャンを主演に迎えた新作『Josephine(原題)』を準備中である。

 

【ストーリー】
とある郊外の幼稚園に勤める教師エミリーが、「アーリア人団結をめざす娘たち」という白人至上主義のグループを結成する。教会の談話室で行われた第1回の会合に集まったのは、主催者のエミリーを含む6人の女性。多文化主義や多様性が重んじられる現代の風潮に反感を抱き、有色人種や移民を毛嫌いする6人は、日頃の不満や過激な思想を共有して大いに盛り上がる。やがて彼女たちはエミリーの自宅で二次会を行うことにするが、途中立ち寄った食料品店でアジア系の姉妹との激しい口論が勃発。腹の虫が治まらないエミリーらは、悪戯半分で姉妹の家を荒らすことを計画する。しかし、それは取り返しのつかない理不尽でおぞましい犯罪の始まりだった……。

監督・脚本:ベス・デ・アラウージョ(長編デビュー) 
出演:ステファニー・エステス、オリヴィア・ルッカルディ、エレノア・ピエンタ、メリッサ・パウロ、シシー・リー、ジョン・ビーバース
2022年/アメリカ/英語/92分/16:9/5.1ch/原題:soft&quiet/日本語字幕:永井歌子/提供:ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム/G

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公式サイト:soft-quiet.com

5月19日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開