2026年は「午年」。走る!跳ぶ!スクリーンで暴れる〈馬〉映画特集
2026年は午年です。
せっかくなら年明けは、馬が強く印象に残る映画から始めてみるのも良さそうです。
今回の特集では、物語の解説や名作としての評価よりも、その映画の中で、馬がどう撮られ、どう使われ、どんな存在感を放っているのかに注目して4作品を選びました。
同じ「馬の映画」でも、戦国時代、戦争、現代劇、西部劇と切り口はさまざまです。
見比べてみると、映画の作り手が馬に何を託してきたのかが、意外とはっきり見えてきます。
馬と言えばクロサワ!戦国最強・武田の騎馬隊を見よ!
『影武者』
『影武者』を観てまず叩き込まれるのが、武田軍の騎馬隊の強さです。
馬が揃って進む。ただそれだけで「これは勝てないな……」と思わせる圧がある。速さや派手さではなく、数と揃い方で戦国最強を分からせてくる。この時点で、もう黒澤明の勝ちです。
前半は、その無敵感をこれでもかと積み上げていきます。騎馬隊が画面に入るたびに緊張感が一段上がる。「戦国の主役、もしかして人じゃなくて馬では?」と思えてくるほどです。
だからこそ、クライマックスの長篠の戦いが効いてきます。
これまで最強だった騎馬隊が、鉄砲によって次々と崩れていく。馬が走り、倒れ、折り重なる光景は、派手な合戦というより、「この戦い方の時代が終わった瞬間」を突きつけてくる。
武田の強さを見せきったからこそ、その崩壊が重い。
『影武者』は、戦国最強の騎馬隊がどう描かれ、どう終わっていくのかまで含めて一本です。午年に観るなら、これ以上ストレートな導入はありません。
作品情報
監督:黒澤明
出演:仲代達矢、山崎努 ほか
製作年:1980年/日本
ジャンル:時代劇
どこで観られる?
レンタル/配信あり(主要配信プラットフォーム)
※配信状況は時期により変動
これぞスピルバーグの本気。馬が走るだけで、映画のスケールが分かる。
『戦火の馬』
『戦火の馬』は、第一次世界大戦を舞台に、1頭の馬が戦争に巻き込まれていく物語です。イギリスの農村で育てられた若い馬・ジョーイは、戦争の勃発とともに軍に徴用され、騎兵として前線へ送られていきます。
この映画がすごいのは、その移動をとにかく「走り」で見せていくところです。草原を全力で駆ける序盤のシーンでは、馬のスピードと体の大きさがそのまま映画のスケールになります。その後、騎兵隊として突撃する場面では、複数の馬が一斉に走り出し、隊列のまま戦場に突っ込んでいく。その迫力だけで、「この戦争がどれだけ大きなものか」が一瞬で伝わってきます。
中盤には、有刺鉄線に絡まった仲間を救うため、馬が前に出る場面があります。ここでは派手な音楽も説明もありません。馬が引かれ、止まり、再び動こうとする。その一連の動きが、戦場の危険さと混乱をそのまま表しています。馬が何かを象徴するのではなく、そこにいる存在として状況を背負わされているのが、この映画の特徴です。
『戦火の馬』は、馬の視点で戦争をなぞることで、戦場の広さ、移動距離、時間の流れを体感させる映画です。馬が走る距離が長いほど、戦争もまた長く、大きなものとして感じられる。だからこそ、「馬が走るだけで映画のスケールが分かる」という感覚が、観ているうちに自然と腑に落ちてきます。
作品情報
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:ジェレミー・アーヴァイン ほか
製作年:2011年/アメリカ
ジャンル:ドラマ/戦争
どこで観られる?
レンタル/配信あり(主要配信プラットフォーム)
※配信状況は時期により変動
ジャッキー・チェンと馬の、笑えて沁みる友情映画
『ライド・オン』
『ライド・オン』は、落ち目の元スタントマンと、その相棒の馬が主人公の映画です。ジャッキー・チェン演じるローは、かつては映画界で活躍していたものの、今は仕事も減り、家族との関係もうまくいっていない。そんな彼のそばにいるのが、長年一緒に現場を渡り歩いてきた馬・チートゥです。
この映画の馬は、ただ可愛い存在でも、仕事道具でもありません。ローがスタントの練習をするときも、現場に出るときも、必ず隣にいる。言うことを聞かずにトラブルを起こすこともありますが、肝心な場面ではちゃんと応えてくれる。そのやり取りが、練習シーンや撮影シーンの積み重ねで自然に描かれていきます。
面白いのは、友情がセリフではなく「動き」で分かるところです。一緒に走れるか、同じタイミングで止まれるか、危ない場面で信じて任せられるか。人と馬が息を合わせようとする過程そのものが、この映画の見どころになっています。だから笑える場面が多いのに、ふとした瞬間にちゃんと沁みる。
物語が進むにつれて、疎遠だった娘との関係も、チートゥを介して少しずつ変わっていきます。『ライド・オン』は、派手なアクション映画ではありませんが、長く一緒に生きてきた相棒との友情が、人生をもう一度前に進めてくれる映画です。ジャッキー・チェンの今だからこそ撮れた一本だと思います。
作品情報
監督:ラリー・ヤン
主演:ジャッキー・チェン
製作年:2023年/香港
ジャンル:ドラマ
馬が走る!馬が跳ぶ!西部劇アクションの原点!
『荒野の七人』
『荒野の七人』のアクションは、とにかく馬がよく動きます。ガンマンたちは馬に跨ったまま村に入り、銃撃の中を走り、障害物を越え、必要な瞬間に馬から飛び降りる。走る、止まる、跳ぶという馬の動きが、そのままアクションの流れになっています。
この映画がすごいのは、動きの起点が常に「馬に乗っている状態」にあること。誰が前に出て、誰が引き、どこで動くのかが、馬の移動だけで分かる。セリフで説明しなくても、画面を見ていれば状況が自然に理解できます。
特に印象に残るのが、七人が馬に乗って並ぶ場面。ユル・ブリンナーの落ち着いた佇まい、スティーヴ・マックイーンの少し落ち着きのない動き。馬の扱い方ひとつで、キャラクターの違いまで見えてくるのが面白い。
CGもワイヤーもない時代に、人と馬が本気で走り、本気で跳んでいる。
その身体性があるから、今観てもアクションが軽くならない。
西部劇アクションの基本が、すでにここで完成している。
まさに“原点”と呼ぶにふさわしい一本です。
作品情報
監督:ジョン・スタージェス
出演:ユル・ブリンナー、スティーヴ・マックイーン ほか
製作年:1960年/アメリカ
ジャンル:西部劇
午年は、いい蹄音で始めよう
語らなくてもいい。主張しなくてもいい。
でも映画の中で、馬はずっと走っています。
午年の最初くらい、人間より先に、馬に注目して映画を観てみる。
それだけで、見慣れた名作が少し違って見えてくるはずです。
どれを選んでも、走り出しとしては上々。
――今年は、いい蹄音で始めましょう。











