7月15日はファミコンの日! ファミコン原作映画“迷作”列伝──ゲームの栄光と映画の迷走、でもどこかクセになる…
1983年7月15日、任天堂が家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ(ファミコン)」を発売した。コントローラーひとつでテレビの中の世界へ飛び込めるという革命は、日本中の家庭にゲーム文化を根づかせた。マリオやリンク、くにおくん……数々の人気キャラクターがこの時代に誕生し、やがてその人気は映画界にも波及していく。だが、ファミコンの名作たちが映画になると、なぜか話はややこしくなる。期待とは真逆の方向へ突き進んだ“迷作”たちが次々と生まれたのだ。
今回はそんな“クセになる迷作”の中から4本をセレクト。原作とのギャップ、なぜこうなったのか、そして今なぜ見返したくなるのか──ファミコンの日の夜に、ちょっとした冒険気分で味わってみてはいかがだろう。
『スーパーマリオ/魔界帝国の女神』(1993)
誰もが知ってるゲームなのに、誰も知らないマリオの世界
現在では、2023年のCGアニメ版『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が世界的な大ヒットを記録し、新世代の“マリオ映画”として広く知られるようになった。だが、ファミコン世代にとって「マリオの映画」といえば、やっぱりこの実写版だ。
原作ゲームは、マリオとルイージがジャンプで敵を踏み、クッパを倒して姫を救うというポップで明快な横スクロールアクション。ところが映画は、恐竜人類が進化した異世界「魔界帝国」を舞台に、水道工の兄弟がディストピアに迷い込むという、まさかのSF大作に仕上がっている。
それでも、ゲームを映画に落とし込もうという工夫は随所に見られる。たとえば、当時発売されていた周辺機器「スーパースコープ」が劇中に登場し、マリオのジャンプ力は“ジャンプブーツ”という推進装置で再現されるなど、妙に律儀なオマージュが盛り込まれている。
原作の面影は薄いものの、ボブ・ホスキンスとジョン・レグイザモのコンビ、デニス・ホッパーの怪演、そして異様に手の込んだセットや美術など、忘れがたい要素には事欠かない。今となっては“マリオを本気で実写化したらこうなった”という貴重な記録として、ある意味で見る価値は大いにある。
監督: ロッキー・モートン、アナベル・ジャンケル
出演: ボブ・ホスキンス、ジョン・レグイザモ、デニス・ホッパー、サマンサ・マシス
配信: Apple TVなどでレンタル可
『ダブルドラゴン』(1994)
ゲームの面影はどこへ? 謎の近未来SFアクション
原作は、誘拐された恋人を救うために兄弟が街中で敵をなぎ倒していくという、王道のベルトスクロールアクション。ファミコン版も大ヒットし、格闘ゲームの原点として語られる名作だ。
ところが映画版は、なぜか近未来のロサンゼルスを舞台に、二つに分かれた秘宝をめぐって兄弟がカルト集団と戦うという、SFファンタジーに変貌。原作のシンプルなストリート感はどこへやら、あらゆる要素が90年代特有のごった煮に仕上がっている。
それでも、ロバート・パトリックのハイテンションな悪役ぶり、アリッサ・ミラノの個性的なヒロイン像など、B級映画としての“味”はしっかりある。ゲームの雰囲気を期待すると肩透かしだが、むしろ“ダブルドラゴン”という名前のついた別作品として楽しんだ方がずっと楽しい。中途半端に真面目な分、逆にクセになる一本だ。
監督: ジェームズ・ユキチ
出演: スコット・ウルフ、マーク・ダカスコス、アリッサ・ミラノ、ロバート・パトリック
配信: U-NEXT、Amazonレンタルなど
『ストリートファイター』(1994)
格闘ゲームのはずが、いつの間にか戦争映画に
映像化の歴史がやたらと長い『ストリートファイター』シリーズ。その中で、やっぱり語りたくなるのが1994年のヴァン・ダム版だ。ファミコンには登場していないものの、あの時代の空気と迷作らしさを凝縮したような一本で、どうしても外せない。
原作は、世界各国の格闘家たちが己の技を競い合う対戦格闘ゲームの金字塔。だが映画では、ジャン=クロード・ヴァン・ダム演じるガイル大佐が、独裁者ベガ率いる軍事国家を相手に特殊部隊を率いて戦うという、まるで『ランボー』のような軍事アクションになっている。
それでも、ゲームへのリスペクトは随所に見える。リュウの波動拳、ガイルのサマーソルトキック、ベガのサイコクラッシャーアタックなど、おなじみの必殺技はちゃんと再現されており、ファンなら思わずニヤリとするはず。キャラ設定も大胆に変えられているが、ラウル・ジュリアの怪演や、独特のテンポ感はクセになる。ツッコミながら楽しむには最適な、極上の迷作だ。
監督: スティーブン・E・デ・スーザ
出演: ジャン=クロード・ヴァン・ダム、ラウル・ジュリア、ミンナ・ウェン、カイリー・ミノーグ
配信: Amazonプライム、Apple TVなどでレンタル可
『熱血硬派くにおくん』(2013)
あの“ケンカ番長”がまさかの青春群像劇に
1980年代後半、ファミコンで絶大な人気を誇った『熱血硬派くにおくん』。乱闘、喧嘩、友情、根性──昭和ヤンキーの要素を全部乗せしたような、痛快不良アクションだった。とこ
ろが2013年に制作された実写ドラマ版では、そのイメージが一変。くにおは等身大の高校生として描かれ、暴力よりも友情や恋愛、進路に悩む青春ドラマが物語の軸になっている。ゲームのような無敵アクションは控えめで、内容は意外にもまっすぐで真面目だ。
主演の大野拓朗はこの作品がドラマ初主演。後に劇場版として再編集された100分バージョンも上映され、俳優の登竜門的な位置づけもあった。ファミコンのくにおくんとは大きく違うが、“くにお”という名前でここまで真剣に青春を描いた試みとしては、むしろ異色の挑戦作と言えるだろう。
監督: 光石富士朗
出演: 大野拓朗、滝口幸広、高嶋香帆、土平ドンペイ
配信: DVD販売中。Amazonなどで一部視聴可
ファミコンの名作たちが映画になった──それは夢のような響きだったはずなのに、なぜかできあがったのは“迷作”の数々だった。でも、それがつまらないという意味ではない。むしろ、原作とのズレ、時代背景、作り手の暴走……すべてが奇跡的に混ざり合ったことで、どれも唯一無二の“クセになる映画”に仕上がっている。
7月15日、ファミコンの日の夜は、あえてこの4本を観てみてほしい。ゲームと映画がすれ違ったその先に、笑えるけど嫌いになれない──そんな愛すべき迷作たちが、きっと記憶に残る夜をくれるはずだ。











