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【終戦記念特集】松本零士は第二次世界大戦を世界で最も描いた漫画家だ/①未来の話なのに、こんなに太平洋戦争を噛み締めれるなんて!「宇宙戦艦ヤマト」

意外と思われる方もいるかもしれませんが、漫画家・松本零士の創作は「宇宙戦艦ヤマト」や「銀河鉄道999」などにとどまりません。彼は世界の中でも稀有な、先の大戦を描き切ったクリエーターでした。それは太平洋上の空や南方戦線のジャングル、ヨーロッパの市街地から寒々とした平原、果ては灼熱のアフリカの砂漠まで世界中に及び、敵味方を超えて、複数の人種や民族がこの戦争にどのような視線を向けていたのか浮き彫りにしてくれます。そして兵士たちの日常風景と彼らの心の動き、さらに命を燃やす一瞬の刹那を、変な感傷や思想に囚われず淡々と、しかし優しい眼差しで我々に語って聞かせてくれるのです。

アニメ文化が世界に拡がった2024年、数十年前からの欧州での高い人気により、その大きな起点の一つとなった松本零士の作品から、終戦記念日特集として第二次世界大戦、太平洋戦争、大東亜戦争なんでもいいのですが、振り返ることで日本人と戦争を考えてみたいとおもいます。

文:たんす屋(神社好きの中年Youtuber)

 

 

未来の話なのに、こんなに太平洋戦争を噛み締めれるなんて!
『宇宙戦艦ヤマト』

大人が見ても鑑賞に堪えうるアニメ、ストーリーも世界観も子供だましではない、いわゆる【大人アニメ】の先駆けとなったのが「宇宙戦艦ヤマト」です。今では当たり前のことなんですが、ヤマト以前はアニメって子供向け、大人なのにアニメを一生懸命見ている人は「ちょっとおかしい」という感じでした。

そのエポックとなったヤマト。松本零士の出世作ですね。

「いや、そもそも原作・松本零士じゃないですよね?」

という声が聞こえてきそうです。そうなんですが、この作品こそ松本零士の生き方がわかる「彼そのもの」と言える作品だと思います。そして、原作という言葉が持つ法的な意味を超えて、「宇宙戦艦ヤマト」の侵すべからざる【神性】は松本零士が憑依したものだということは、誰もが認めざるを得ない事実だと思います。

「宇宙戦艦ヤマト」に秘められた太平洋戦争の記憶と松本零士の想いについて記したいと思います。

ヤマトに隠された戦争オマージュ

まず松本零士がこの作品の原作を手渡された時、彼はアニメとはいえ、これを中途半端な気持ちでやってはいけないと思ったそうです。

『ヤマト』は歴史のはるか彼方にある英雄の物語ではない。それはとても身近なテーマであり、そしてどの部分にも「死」がつきまとっているのである。(松本零士談)

彼の脳裏には、空襲にあって焼け出された戦災者の人々、負傷して帰国した兵士たち、見上げると大空を悠々と舞う米軍の航空機や、そのはるか上空を飛ぶB29の衝撃的な姿など子供の頃の想い出があったでしょう。松本零士にとって「宇宙戦艦ヤマト」は絵空事のファンタジーにはどうしてもできない作品だったのです。

だから松本零士は「漫画だから子供向けでいい」という、当時のアニメ界の常識に果敢に挑戦します。単なるメカニックデザインとしてプロジェクトに加わった彼でしたが、ヤマトの特徴的なフォルムはもちろん、ワープ航法、波動砲など物語の根幹となる設定をスタッフとの摩擦を生みながらも作り上げていく(彼のお兄さんが学者だったのも大きいでしょう)。特徴的なメカによって「宇宙戦艦ヤマト」は大人アニメの嚆矢となり、松本零士はアニメファンから一躍注目されるようになっていきます。

第一話で沖田艦長が「すまん」と謝るシーンがある。古代進に「なぜ兄さんを連れて帰ってくれなかった」と詰め寄られ、謝るのだ。これはまさに私の父の経験そのものだった。(松本零士談)

実は、松本零士の大きな原点は父親です。彼の父は第32教育飛行隊の隊長として、大戦の後半、新参パイロットの教育を行っていたましたが、実戦部隊に送り出した部下の中には後に特攻隊員として出撃していった者も少なくなかったそうです。父の想いを聞かされた育った松本零士にとって主人公・古代と沖田のやり取りは単なる芝居ではなかったでしょう。

そして私が注目したいのは技術士官の真田士郎という男です。

波動エンジンはイスカンダル星のスターシャからの贈り物ですが波動砲を作ったのはこの男です。

事故で手足を失ったことがきっかけで(義手義足なんですね)科学畑のプロになったという過去や、進の兄・古代守と同期で親友で、守が艦長を務める「ゆきかぜ」の帰還性能を自分が整備したのに保証できなかったと悔やんでいて弟の進に謝罪したり、誰に頼まれたわけでもないのに兄替わりとして進を見守っていたりと、とっても昔の日本人ぽいんですよね

彼は傷痍軍人(こういう言い方がありました)であり、失った戦友の遺された家族が心配でしょうがなくて、いつまでも影から世話をやこうとしている昭和の日本人そのものなんだと思います。

 

ガミラスの正体

敵に目を転じると、ご存じのように地球を侵略するガミラスはナチス・ドイツなわけで、総統デスラーはヒトラー、副総統ヒスはヘスということで、ヤマトと戦っているとなると同盟国・日本人的にはちょっと変に感じるところもありますが(まあナチスは誰にとっても悪の権化だったわけです)、その中でもドメルという名将軍が出てきます。彼は第二次世界大戦中“砂漠のキツネ”の異名を持つドイツの名将ロンメルですよね。

ガミラスの最終防衛ラインでヤマト待ち受け、様々な作戦を仕掛けるドメルとはシリーズ最大の激戦を演じますが、最終的にドメルはヤマトの第三艦橋(下側についてる艦橋)に密着すると壮絶な自爆をします。ヤマトには甚大な被害が出て多くの乗組員(確か70名だったか?)が戦死しました。この葬送儀礼をやるあたりがとっても昭和で、今のアニメだったら絶対にこんなことはやらない、というか人は死んでないですよね。

また、自爆の直前ドメルは沖田と交信し、互いを祖国の命運を担う戦士と認めあいます。このあたりが平成世代以降にはまったく意味がわからない感情だと思いますが、敵味方ではなく、国は違えどお互い同じ立場で同じプレッシャーやモチベーションを共有している者同士は高い次元のシンパシーがあるものだという日露戦争をはじめ多くの戦争で見られる騎士道精神にも近い、戦うもの同士の感情が描かれているあたりも、さすがは松本零士だと思います。

そして何より、ガミラス星自体が放射能汚染で住めなくなっていたという驚愕の事実。あの青い顔のデスラーから全く想像もつかない、単なる悪役ではない敵の事情や苦しみを知り、ヤマトのクルーたちが愕然するかんじがたまらないですね。

話は横にそれますが、ナチスドイツも単なる征服欲で生まれた悪の組織ではありません。

ナチスドイツを生み出したのは、第一次世界大戦後のベルサイユ条約で敗戦国ドイツに課されたあまりに巨額な賠償金(1320億金マルク・現在の価値にすると約200兆円!)だといえます。そのせいでドイツはハイパーインフレに見舞われ、国は荒廃し、その中で急進的な指導者が登場したのです。

アメリカ、イギリス、フランス、ロシア。当時よってたかって敗者をいじめた結果が第二次世界大戦なのです。現代の先進国はこれを学びとして、敗戦国へのあまりの制裁は新たな敵を生み出してしまうことを肝に銘じておいたほうがよいでしょう。

ウクライナ、中東、憎しみの連鎖を断つ方法は勝者・強者が持っているのです。

日本人のハートに訴える!終戦記念日こそヤマトを

ま、いろいろありますが、「宇宙戦艦ヤマト」の中の最大の名シーンは、やはり朽ち果てて土に埋もれた往年の戦艦大和の中から、宇宙戦艦が出現し、そのまま、空へ飛び立つシーンでしょう。これはビジュアル的にも圧倒的でその後ハリウッド映画含め似たような表現がありますが、これに勝るものはありません。また復活して、すぐさま主砲をぶっ放すあたりは、これはもう太平洋戦争時、大和も武蔵も世界最大の46センチ砲を使うチャンスがほとんどなく、ハチのようにたかる飛行機によって沈められたということへの鬱憤をいきなり晴らしている感じがして、爽快この上ないです。砲身が別々に動くのがたまりません。

というわけで、

「宇宙戦艦ヤマト」は未来の話ながら、戦争世代のハートと実体験のリアリティがこもった勇ましくもほろ苦い、終戦記念日に「戦争を噛み締める」にふさわしい映画だと思います。

※ま私の中では「宇宙戦艦ヤマト」「さらば宇宙戦艦ヤマト」「ヤマトよ永遠に」までが許容できる範囲です。

原案:西崎義展
監督:松本零士
脚本:藤川桂介、田村丸、山本暎一
キャラクターデザイン:岡迫亘弘
メカニックデザイン:松本零士、スタジオぬえ
音楽:宮川泰

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