『方舟にのって～イエスの方舟45年目の真実～』初日トークイベント実施！ジャーナリスト佐々木俊尚が佐井監督を絶賛「日本からすごい才能がドキュメンタリーの世界に現れた」

2024.07.06

1980年、東京・国分寺市から10人の女性が突如姿を消したと報道され、世間から激しいバッシングを受けた謎の集団「イエスの方舟」。騒動から45年もの長い年月が経過し、現在の彼女たちの姿を追った佐井大紀監督による最新作となる長編ドキュメンタリー『方舟にのって〜イエスの方舟45年目の真実〜』がいよいよ本日7月6日（土）より公開をスタートした。今回、映画の公開を記念して東京・ポレポレ東中野にて初日トークイベントが実施され、本作を手掛けた佐井大紀監督、ジャーナリストの佐々木俊尚が登壇した。

拍手で迎えられた佐井監督は「こんな朝早くの殺人的な暑さの中、来ていただいてありがとうございます。本当に皆さんに感謝を申し上げます。」と午前中の初回上映に駆け付けた観客に感謝の意を述べた。

イベントがスタートし、MCがゲストの佐々木氏に本作の感想を尋ねると、佐々木氏は「当時、事件が起きたのが高校3年生くらいで、事件自体はすごく覚えたんだけど、頭の中では完全にその後の統一教会とオウム真理教などが一緒くたになっていて、なんとなく“騙されやすそうな人たちが誑かされて信者になった”くらいの漠然としたイメージしか持っていなかったんです。この作品を見て驚いたのは、すんげえみんなお洒落で綺麗で、1人1人が自分の言葉できちんとバシっと喋られていて、当時の1980年当時の凛とした感じの女性たちの姿が、あれから半世紀たった今も変わってなく、みんなすごい佇まいの美しい60代とかになられていて、なんか宗教の持つ意味って実はすごいポジティブな部分もあるよねっていう。こういうことを言うと日本社会ではすごく馬鹿にされるんだけど、改めてそこを考えないといけない。すごい良い題材になっている映画だなと感じました。」と率直な感想を述べた。

さらに佐々木氏は、本作を観て「イエスの方舟」は単なる宗教団体ではなく、当時の日本社会にはまれなかった女性たちが生きていく上での共同体だったのではないかと感じたという。「アジールという言葉があって、民俗学とか人類学でよく使われる言葉で“避難場所”という意味なんですが、ちょっと前に是枝裕和監督が『万引き家族』を撮りましたけど、あの映画なんかまさにそうで、この社会に居心地の悪い人たちが寄り集まって、万引きをしながら生計を立てるという。そういうアジールみたいなものが社会には必要で、万引き家族は犯罪者の集団なんだけど、それを否定的に描くのではなく、実は拠りどころとしてそういうものがあるんだということを公的に描いたたのがあの映画の特徴だったと思います。まさにイエスの方舟というのは、宗教というより、ある種のアジールとして作用したのかなと。キリスト教の教えというのはもちろんあるんだけど、それはどっちが先か分からないけど、見てて思ったのは、まあ後から付けても構わないかな、ぐらいの感じだったんじゃないかなという気がします。」と考察した。

佐々木氏の言葉を受けて佐井監督も「宗教とかキリストの教えというものはこの団体の本質ではないと思います。おそらく女性たちがシスターフッドを形成するために必要な、ある種のキーワードとしての聖書であり、そのハブとしての千石イエスという、主体が女性にあるっていうところはかなり感じます。ただ、それも歴史的に45年間の時間が経って彼女たちを何か定義づけるならそうかもしれないけど、当時の人々が感じた、いかがわしさみたいなものとだったのかというところは二元論的に言い切れはしないなというところがあるんです。」と答えていた。

そしてイベントは、現在もイエスの方舟が経営する「シオンの娘」の話題に。取材で何度も足を運んだ佐井監督にどういう店なのか尋ねると、「要はショーパブなんですけど、カウンターの向こうに女の人が座って喋るガールズバーの構造をとってるんです。ガールズバーなんですけど、手作りの家庭料理も出てきて、実家に帰ったみたいな空気感で話を聞いてくれる。それからショーも始まるんですけど、藤圭子の曲とかを歌ったりとかして・・・不思議な空間ですよね（笑）結構すごいフラメンコとかバキバキに踊りながら、その横で演歌を歌ってるみたいな。錯乱するとちょっとアレですけど、そういう祝祭祝な空間ですね。」と話すと、佐々木氏も「お客さんで来てるおっちゃんたちとか良い表情してますよね」とコメントすると、「意外と福岡の経済人とか不動産の人とか、税理士の人とかってところで、意外とそういうサロン的な役割も実は果たしていて、一筋縄でいかない空間なんですよ。」と答えると佐々木氏も驚いた様子だった。

最後にMCから、新進気鋭の若手ドキュメンタリストとして活躍する佐井監督について、佐々木氏に伺うと「さっきお聞きしたら、別にドキュメンタリーをずっと使っていたわけではなく、ドラマをやられていて『日の丸』が始めてのドキュメンタリーだと。僕はドキュメンタリー映画ってすご可能性があると思っていて、メディアで連載もしているんだけど、海外ドキュメンタリーでめちゃめちゃ面白いのが多いに比べて、日本のドキュメンタリーって正統的で良いんだけど地味なんですよ。全部NHKスペシャルになっちゃう。もうちょっとはっちゃけた切り口のドキュメンタリーができてもいいんじゃないかと思っているところに、『日の丸』と今回の『イエスの方舟』が出てきて、日本からすごい才能がドキュメンタリーの世界に現れたかと思ったら、ドラマの人だった（笑）でも、そういうアウトサイドから出てくる人の方が、多分今後の日本のドキュメンタリーを支えていくんだろうなと思って、今後とても期待しております。」エールを送りイベントは終了した。

『方舟にのって～イエスの方舟45年目の真実～』
7月6日（土）ポレポレ東中野ほか全国順次公開

監督：佐井大紀
企画・エグゼクティブプロデューサー：大久保竜
チーフプロデューサー：能島一人
プロデューサー：津村有紀
クリエイティブプロデューサー：松木大輔
撮影：小山田宏彰、末永剛
ドローン撮影：宮崎亮
編集：佐井大紀、五十嵐剛輝
MA：的池将
製作：TBSテレビ
配給：KICCORIT
配給協力：Playtime
©TBS
2024年／日本／69分／ステレオ／ 16:9