『i-新聞記者ドキュメント-』公開記念「常識を打ち破る映画会社スターサンズ」特集 ①
2019年の映画界の大きなトピックとなった映画『新聞記者』の大ヒット。邦画では、なかなかなかった政治エンタテインメントという新たなジャンルを切り開き、6月の公開からロングヒットを記録。いまだにやっている劇場もあり、累計動員数は50万人に達する勢いだ。
その『新聞記者』の原案で東京新聞社会部記者の望月衣塑子を、オウム真理教を題材にした『A』や、ゴーストライター騒動の渦中にあった佐村河内守を題材にした『FAKE』などで知られる監督、森達也のカメラが追いかけたドキュメンタリー『i-新聞記者ドキュメント-』が今週末全国公開される。
この2作品は同時に生み出されたいわば双子の関係。企画したのは今や今年の映画界の顔になりつつある、スターサンズの河村光庸(みつひろ)プロデューサーだ。河村氏率いるスターサンズは2008年に設立され、これまでも『息もできない』『かぞくのくに』から『愛しのアイリーン』まで、配給・製作両面にわたり、見る者の心を揺さぶる骨太な作品を数多く世に送り出してきたが、2019年は『新聞記者』『宮本から君へ』『i-新聞記者ドキュメント-』などさらに挑戦的なラインナップを揃え、映画業界を賑わしている。
今回のリアリスティックムービー特集では、、そんな注目の映画会社「スターサンズ」が提供してきた新旧の作品群を紹介したいと思う。
『i-新聞記者ドキュメント-』公開記念
「常識を打ち破る映画会社スターサンズ」特集 ①
『新聞記者』(2019)
メディアのタブーを破る意欲作
近年のスターサンズの勢いを象徴する作品と言えるのが本作『新聞記者』ではないだろうか。この映画は思った以上のタブーに挑戦している。
まず第一に新聞記者の役を韓国人にやらせたこと。記者という「文字と言葉の仕事」を外国人がやることに途方もない違和感を覚えた方も多いだろう。また、松坂桃李がこれほどの政治がらみの映画に出るとは、この後の俳優生命は大丈夫か?と心配したものである。さらなる挑戦はこの映画が参議院選挙前の6月に公開されたことで、選挙の公示後はほとんどマスコミの政治ネタが制限されるのを覚悟でこの時期に公開をブッコんできたことである。
結果どうだったか?
正直いうと新聞記者シム・ウンギョンの存在感や説得力は、予想をはるかに超えてきた。さらに松坂桃李が出たことでこの映画はサスペンスとして認知されるようになった。女性記者×エリート官僚。主演二人の対峙は政治である前にエンタメだったのだ。
そして公開時期だが、確かに選挙前の時期を選んだことによって、地上波テレビの映画紹介はほとんど出てなかった。様々なメディア側の忖度がこの映画に逆風として立ちはだかったことだろう。だがしかし、『新聞記者』を意気に感じた多くの人の応援コメントがツイッター上に溢れ、今の政治に対する問題意識をこの映画に投影する記事も後を絶たず、世の中のムードを捉える事には成功した。
話題性という言葉を地上波テレビが独占した時代の終焉をみる思いだった。
そして、最大の挑戦はプロデューサーの河村氏が本作の監督にあえて新聞を全く読んでいない若い藤井道人監督を抜擢したことだろう。『青の帰り道』、『デイアンドナイト』というスタイリッシュな娯楽作を手掛けてきた藤井監督だからこそ、一歩間違えれば堅い難しい社会派作品になっていたかもしれない本作のテーマを、新聞を知らない世代の言語に変換して再構築し、緊迫感あふれるエンタテインメントができたのだと思う。
「『社会派エンターテインメント』と名付けてくれるのはうれしいけれど、僕たちは人間を撮った、人間を演じた。それだけしかないし、そんな風に見てくれたらうれしいなと思う」(2019年7月10日 HUFFPOST)
なるほど確かに。本作に出てくる全ての人間は血が通い、肉が付いているように感じる事ができる。だからこそこの映画は多くの人に支持され、社会現象と言われるまでにヒットしたのだろう。
【あらすじ】
東都新聞の記者・吉岡(シム・ウンギョン)は、大学新設計画にまつわる極秘情報の匿名FAXを受け取り、調査を始める。日本人の父と韓国人の母を持ち、アメリカで育った吉岡はある思いから日本の新聞社に在職していた。かたや内閣情報調査室官僚の杉原(松坂桃李)は、国民に尽くすという信念と、現実の任務の間で葛藤する。
【キャスト】
シム・ウンギョン、松坂桃李 ほか
【スタッフ】
監督:藤井道人
原案:望月衣塑子「新聞記者」(角川新書刊)、河村光庸
■DVD & Blu-ray
11月22日(金)発売&レンタル開始
Blu-ray:4,800円(税抜)
DVD:3,800円(税抜)
■デジタルセル版(EST)
10月23日(水)先行配信
詳しくはこちら
【配信はこちらから】
【特集:常識を打ち破る映画会社スターサンズ ②】
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- 『i-新聞記者ドキュメント-』公開記念「常識を打ち破る映画会社スターサンズ」特集 ② 『息もできない』(2009)