いろいろな“ビギニング”映画特集①『バットマン ビギンズ』
“ビギニング”映画特集①
映画がヒットし、シリーズ化が進むと作られることが多いのが前日談。最近もバットマン宿敵の誕生を描いた『ジョーカー』が公開され大きな話題となった。そしてまた1本、新たなビギニング映画が産声を上げた。伝説上の人物であると同時に、数多くの映画が作られた英雄ロビン・フッド。そんなフッドの誕生秘話を描いた『フッド ザ・ビギニング』が10月18日に公開となる。そこで今週の「今夜何観る?」コーナーでは、古今東西のいろんな“ビギニング”映画をご紹介します!
『バットマン ビギンズ』(2005年)
●“伝説の幕開け”
アメコミ2大勢力の一つDCコミックの顔とも言えるヒーローは間違いなくバットマンとスーパーマンだろう。『バットマン ビギンズ』はそのタイトルが示す通り、主人公ブルース・ウェインがいかにしてバットマンとなり、影のヴィジランテとして戦う人生を歩むようになったかが描かれている。
【ストーリー】
ブルース・ウェインの頭から片時も離れることがないのは、眼前で最愛の両親を射殺された忌まわしい記憶。のしかかる罪悪感と怒り、日増しに膨れ上がる復讐心、さまざまな思いをかかえた失意の御曹司ブルースは何不自由ない生活を捨て去り、ゴッサム・シティーを離れ、世界中を放浪するようになる。7年ぶりにゴッサム・シティーへと戻ったブルースは、犯罪と不正にまみれた街の現状を目の当たりにし、内に秘めた「影の存在」を解き放つ決意をする。それは正義を全うすべく揺らぐことのない信念と強靭な肉体を漆黒のスーツに包み、恐怖を敵の心に植えつける闇の騎士”バットマン”だった。
本作はいわゆる“ダークナイト トリロジー”の1作目である。なぜ“バットマン トリロジー”ではなく“ダークナイト トリロジー”なのかは次回作『ダークナイト』を観れば分かる。そもそも『バットマン』の映画は本作の前に4本製作されているが、この『バットマン ビギンズ』がそれらの作品と違うのは重厚な人間ドラマにスポットを当てているからだ。それは監督を務めたのがクリストファー・ノーランであることも非情に大きいだろう。
後に『インセプション』や『インターステラー』といった傑作を生み出すこの監督は、『バットマン』を単なるアメコミ映画として描くのではなく、多様な人間関係が織りなす重厚なヒューマンドラマとして仕上げている。これはノーランの作品に共通することで、大作の中にも自身の作家性を強く出すことに成功している。次回作の『ダークナイト』は、犯罪映画としても一級の出来で、ヒーロー映画だからと敬遠していた観客をも唸らせる域にまで到達している。
主要キャストを観てもアメコミ映画とは思えない程に映画界の重鎮たちが名を連ねている。主演のクリスチャン・ベイルはブルース・ウェインというキャラクターが抱える恐怖や葛藤を見事に表現している。世間からは叩かれているが、この映画のケイティ・ホームズは非常に良い。個人的にはマギー・ギレンホールよりこの役にハマっていると思う。『96時間』以降はアクションスターの仲間入りをした、名優リーアム・ニーソンも、本作で戦闘のプロとしてブルースを導く存在として登場。また、『ラストサムライ』で世界的に評価された渡辺謙が、本作のヴィランであるラーズ・アル・グール役で出演し注目を集めた。
アクションに目を向けると、近年の大作映画に観られるようなVFXを多用する映画ではなく、人間の肉体が見せるアクションをリアルにカッコ良く描かれている。ケレン味のある嘘くさいアクションよりも生々しいリアルな格闘描写を追求した結果、バットマンのファイトスタイルには実際のに存在する超実践型武術と言われる「ディフェンスラボ」を採用している。個人が集団と戦くシチュエーションが多い本作との相性は抜群だ。ちなみにノーラン監督はCGを多用することを避ける監督であり、本作の続編の『ダークナイト』では本物のビルを丸ごと1棟を実際に爆破&倒壊させている。
コミックにもないバットマンのオリジンストーリーを描いた本作。クリストファー・ノーラン監督の描く『バットマン』は驚きと興奮に満ちあふれていながら、重厚な人間ドラマを楽しめる極上のエンターテインメント作品となっている。
『バットマン ビギンズ』(2005年)
監督:クリストファー・ノーラン
キャスト:クリスチャン・ベイル、マイケル・ケイン、モーガン・フリーマン、ケイティ・ホームズ、渡辺謙
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