【本音批評】映画『ジェミニマン』に見る“観客が映画に求めるもの”

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2013年の映画『ライフ・オブ・パイ』で自身2度目となるアカデミー賞監督賞を受賞し、名実ともにハリウッドを代表する監督となったアン・リー。そんなリー監督の最新作、ウィル・スミス主演『ジェミニマン』が現在公開中だ。

『アラジン』の大ヒットも記憶に新しいウィルが演じるのは、政府の依頼で数々の悪人を暗殺してきた凄腕のスナイパー、ヘンリー。引退を決意したヘンリーは、最後の仕事として一人の男を暗殺するが、その男が実は無実だったことを知らされる。その真相を突き止める中、ヘンリーは突然若いころの自分によく似た人物から襲撃を受ける。なんと襲撃者の正体はヘンリーのクローンだった。クローンはなぜつくられたのか。そこには大きな陰謀が隠されていた、というのが大まかなストーリー。

本作は“ウィル・スミスが若いクローンと対決するアクション映画”という触れ込みで宣伝されているが、実は“映画における映像表現”において、非常に野心的なふたつの試みを行っている作品でもある。

まずひとつめは、若きウィルの姿をしたクローンだ。昨今の目覚ましいCG技術の発展により、俳優の顔にCG処理を施したりして、若い姿で登場させるというのはハリウッド映画でよく見かけるようになってきた。しかし、本作のウィルの若い姿は完全フルCG。ここまで長い時間に渡ってデジタルの俳優が劇中に登場するというのは、長い映画史でも初めての試みだ。そのクオリティも素晴らしく、いよいよ俳優もデジタルで表現できる領域に入ってきたと言えるだろう。

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そしてもうひとつは、フレームレート。映画に限らず、映像というのは静止画(フレーム)を連続表示させることで動いて見えている。フレームレートとは、その映像において1秒間に何フレーム表示されているかを示す数値であり、数字が多ければ多いほどなめらかな映像になり、逆に少なければカクカクした映像になる。パラパラ漫画を思い浮かべればわかりやすいだろう。

そして、映画の映像は秒間24フレームである。『ジェミニマン』は、この24というフレームレートを大幅に増やした秒間120フレームで撮影されている。ようするに“めちゃくちゃ滑らかに動く”のである。なぜそんなことをしたかと言うと、映画館の3D上映のためだ。通常の24というフレーム数では秒間のコマ数が少なすぎて、動きの多いシーンになるといつも以上にブレが気になってしまい、せっかくの3Dの立体的な映像がリアルさに欠けてしまうのだそう。

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実は、過去にピーター・ジャクソン監督の『ホビット』シリーズでもこの試みが行われていて、日本でもいくつかの劇場で秒間48フレーム上映された。筆者はそれを運よく劇場で観ることができたのだが、これまで見てきた映画とは全く違うくっきりとした滑らかな映像に驚いたのを覚えている。

そしてジェームズ・キャメロン監督も、3D上映を世界的に浸透させた『アバター』の続編では、48フレーム以上のフレームレートで撮影するつもりとのこと。今後の3D上映は48フレーム以上が当たり前になっていくのかもしれない。

Netflixをはじめとした配信ビジネスが台頭してきた現在、リー監督をはじめとした巨匠たちは、映画館という場所に注目を取り戻すため、新たな映像表現を模索しているのだ。

そんなアン・リー監督の『ジェミニマン』の映像は確かに凄い。筆者が鑑賞したのは、60フレームという監督の意図した120フレームの半分でしかなかったが、今までとは全く違う映像体験で、特に動きの多いアクションシーンではその効果は絶大だった。

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しかし、である。

本作『ジェミニマン』は、すでに10月11日からアメリカで公開され、その興行成績はかなり厳しいものになっている。

まず、本作を苦しめているのは、完全対応する劇場がほぼないという壁だ。筆者は都内だったので、なんとか60フレームで観ることができたが、この作品を監督の意図した形で鑑賞するには、ただでさえ料金の高い3D上映の上に、120フレームでの上映、さらに4Kが必要になる。事実、これは簡単なことではなく、4K、3D、120フレームという3項目をクリアできた劇場はアメリカでさえ1館もなかった。日本でも大半は通常の24フレーム上映、4Kについては情報が定かではないのだが、少なくとも3D&120フレームでの上映はたった3館しかない。リー監督の意図したものを観るのは、かなりハードルが高いというのが現状なのだ。

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そしてもっと大きな問題は、本作のストーリーだ。“若いクローンが出てくる”という事前情報に勝る驚きがなく、定番なストーリー展開と言えば聞こえはいいが、大味でツッコミどころも多く、ややご都合主義なストーリーになってしまっているのは否めない。

以前、キャメロン監督の『アバター』によって3D上映が世界的に広まったのは、歴史的な大ヒット作になったことももちろんだが、それ以前に良質のストーリーがあったからにほかならない。リー監督の評価を確固たるものにした『ライフ・オブ・パイ』も、伏線の張り巡らされた素晴らしいストーリーが、極上の映像美によって語られていた作品だった。やはり映画そのものが面白くなければ観客はついてこないし、観客が付いてこなければ映画館側も対応に動くとは難しくなるだろう。

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しかし映画ファンなら、この作品の映像表現は観ておく価値がある。前述したように、日本では3D&120フレームでの上映は3館しかない。しかし逆に言えば、3館はあるのだ。その3館は、いずれも1年以内に最新のドルビーシネマを導入したばかりの劇場。1年前ならば日本では観ることすら出来なかったのだから。

その3館に行けない方も、60フレームであれば全国60館ほどで上映を行っている模様。公式サイトの劇場情報をチェックして、ぜひ高フレームレートの3D上映を味わってみて欲しい。これまでにない感覚を味わうことができるはずだ。

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【スタッフ】
監督:アン・リー(『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』
製作:ジェリー・ブラッカイマー(『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ)

【キャスト】
ウィル・スミス、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、クライブ・オーウェン、ベネディクト・ウォン

公式HP:geminiman.jp

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