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『レミニセンス』思い出は最も甘い毒。適量なら薬にもなるけれど…?

◆公開中の注目作 
『レミニセンス』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

本作の予告編や日本版ポスターにどのような印象を持っただろうか。「クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』っぽい」? 確かに類似点はある。ビルに押し寄せる波、人気のない街、他人の記憶に入り込むという設定……(同作では夢への潜入だった)。製作を務めたのは、クリストファーの弟で脚本家としてもよくタッグを組んでいるジョナサン・ノーラン。それもあってか、本作には知的好奇心を刺激することで人気のノーラン作品的な雰囲気がある。しかし、監督・脚本のリサ・ジョイは彼らよりさらにヒューマンな要素に関心があるようだ。

本作の脚本は、2013年にハリウッドの「ブラックリスト」に載った。「ダメじゃん」と思った方、安心してほしい。これは映画化されていない有望な脚本のリストのことで、実は以前、韓国の巨匠パク・チャヌクが映画化に興味を示したほどの作品だったのだ。ジョイは台湾人の母親を持ち、パクのファンでもある。劇中でも、彼の一番の代表作へのオマージュが見られる。

物語の舞台は、環境問題が悪化し、大都市までもが海に沈みかけている時代。人々は未来への希望を捨て、過去の美しい思い出に溺れながら生きている。特殊な装置でそれを可能にする主人公のニックは、ある日訪ねてきた美女メイに惹かれるも彼女は失踪、諦められずに彼女を知る者の記憶覗きに囚われる。メイはMaeと綴るが、ニックはマエでなく後方を向きながら時の中を前進していく。「レミニセンス」とは回想・思い出を意味する。本作の世界観はレトロフューチャーで、都市を飲み込む海は「記憶の海」という単語を連想させる。移動手段のひとつはボートで、生気のない街はまるで退廃的なベニス。もはや郷愁と言うより過去への執着、非常に“後ろ向き”な作品だ。

興味深い事実がある。ジョイはジョナサンの妻だ。また、ジョナサンは『インセプション』の脚本は書いていない。その代わり『インターステラー』を書いた。これは、人類が住めなくなった地球をあっさり捨て(まさか!)、新たな星を探しに行く冒険SFで、本作とは逆にこれ以上ないほど“前向き”な作品だった。しかし、この正反対の夫婦だからこそSFとロマンスの要素が絶妙に絡み合い、まさしく愛の結晶たるユニークな作品へと結実した。あなたにも、未来を忘れ浸りたい過去はあるだろうか。あるならば、甘美な毒たる本作を味わう前に、オルフェウスについて調べておくと良いだろう。

【ストーリー】
都市が海に沈み、水に支配された世界で、《記憶潜入(レミニセンス)エージェント》として暗躍するニックに、検察から仕事が舞い込む。新興勢力のギャング組織の男が瀕死の姿で発見され、その男の記憶に潜入し、ギャングの正体と目的を掴めという依頼だ。記憶から映し出される事件のカギを握る謎の女性メイを追って、多くの人々の記憶潜入を試みるニック。膨大な記憶と映像に翻弄されるニックは、やがて予測もしなかった陰謀へと巻き込まれていく――。

【キャスト】
ヒュー・ジャックマン、レベッカ・ファーガソン、タンディ・ニュートン

【スタッフ】
監督・脚本:リサ・ジョイ

製作:ジョナサン・ノーラン

公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/reminiscence-movie/index.html

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